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AGU Journal Highlightsに選ばれました

水・土砂防災研究部 下川主任研究員らの論文「Thermodynamics of irreversible transitions in the oceanic general circulation」が選出

当所の水・土砂防災研究部の下川信也主任研究員と広島大学大学院総合科学研究科の小澤久准教授は、近年問題となっている温暖化や過去の氷期・間氷期変動などの長期的な気候変動に大きな影響を与える海洋大循環の変動のメカニズムについて研究し、その成果についての論文(Geophysical Research Letters, Vol. 34掲載(doi:10.1029/2007GL030208))がAGU Journal Highlightsに選ばれ、2007年6月29日付AGUのウェブ上で、Changes in ocean circulation: A thermodynamics approachBLANKとして紹介されました。

なお、AGU Journal Highlightsは、アメリカ地球物理学連合(AGU: American Geophysical Union)の「Geophysical Research Letters」誌に掲載された論文の内、特に注目すべき論文を紹介するものです。

研究の背景

地球温暖化の数値シミュレーション結果は、温暖化が海洋循環を弱めるか、場合によっては停止させ、逆に寒冷化を引き起こすという可能性をも指摘している(1)。実際、最近そのような海洋循環の弱まりが大西洋で観測されたとの報告もある(2)。また、氷期・間氷期など過去の急激な気候変動の多くも海洋循環の急激な変動に伴っていたと考えられている(3)。このような海洋循環の変動は急激で、それゆえ、将来のみならず現在の人類にとっても大きな影響を与える。しかし、その海洋循環の変動のメカニズムにはいまだに未知のところが多い。海洋は、単純化して言うと、赤道域で熱と塩分を得て、高緯度で熱と塩分を失うという非平衡開放系と考えることができる(図1左)。この熱と塩分の不均一は、海洋循環を引きこすことにより、その不均一を解消しようとする(図1右)。下川らは、このような海洋循環の挙動について、非平衡熱力学におけるエントロピー生成率最大説(Maximum Entropy Production: MEP)(大気や海洋のような平衡から遠く離れた系はエントロピー生成率が最大の状態で安定化するという説)に着目して、研究を行った。

研究成果の概要

下川らは、海洋大循環モデルを用いて、淡水擾乱(例えば、温暖化により極域で海氷が融けるようなこと)に対する海洋循環の応答を擾乱の大きさと符号、及び、初期状態の異なる21ケース(各250年間)の数値実験によって調べた。数値モデルとしては、GFDL(米国、地球流体力学研究所)の海洋大循環モデルを用い、大西洋を理想化した周極流のある矩形海洋の領域で計算を行った。また、数値実験におけるエントロピー生成率の計算には、下川らが定式化した大規模な数値モデルでもエントロピー生成率を評価できる方法(4)を用い。数値実験の結果は、淡水擾乱に対する海洋循環の遷移は、常にエントロピー生成率がより大きい方向に起こること(図2)、及び、MEPがその挙動を理解する一般原理となり得ることを示した(図3)。本研究の成果は、近年問題となっている温暖化時や過去の氷期・間氷期の変動時に予想される海洋循環の急激な変動を伴うような気候変動の解明に役立つと考えられる。

図1.非平衡開放系としての海洋系(左)とその海洋系における海洋循環の形成(右)。
図1。非平衡開放系としての海洋系(左)とその海洋系における海洋循環の形成(右)。

図2(左図)。数値実験の結果のまとめ。(擾乱が初期の循環を破壊するほど強い場合を除いて)淡水擾乱による海洋循環の遷移は、常にエントロピー生成率がより大きい方向に起きる。
図2(左図)。数値実験の結果のまとめ。(擾乱が初期の循環を破壊するほど強い場合を除いて)淡水擾乱による海洋循環の遷移は、常にエントロピー生成率がより大きい方向に起きる。

図3(右図)。エントロピー生成率最大説の概念図。孤立系では、エントロピー最大の平衡状態へと向かう(熱力学の第二法則、図(b))が、大気や海洋のような平衡から遠く離れた開放系では、エントロピー生成率最大の状態へ向かう(MEP、図(a))。図3(右図)。エントロピー生成率最大説の概念図。孤立系では、エントロピー最大の平衡状態へと向かう(熱力学の第二法則、図(b))が、大気や海洋のような平衡から遠く離れた開放系では、エントロピー生成率最大の状態へ向かう(MEP、図(a))。

参考文献:
(1) Alley, R. B. (2004), Scientific American, 291(5), 62-69. (2) Bryden H. L., H. R. Longworth, and S. A. Cunningham (2005), Nature, 438, 655-657. (3) Broecker, W. S. (1997), Science, 278, 1582-1588. (4) Shimokawa, S. and H. Ozawa (2001), Tellus, 53A,266-277. (5) Broecker, W. S. (1987), Natural History Magazine, 97, 74-82.

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