平成13年度 第3回研究推進会議
いままでの治水、これからの治水
−ダムに頼らない治水を求めて−
新潟大学工学部建設学科
環境計画講座教授
大熊孝氏
「日本の川は急勾配で、洪水になりやすく、渇水になりやすい」という負のイメージで語られることが多かった。しかし、それがゆえに、鮭やアユなど海と行き来する生物の存在を認識し、山と海とが川によって一体となっている。このような地球の水循環や生物を介した大物質循環があるということを再認識すべきである。災害にあいやすい所ほど人が住みやすく、被害にあう。川は矛盾するものであり、そこに文化が生まれてきた。これまで、「河川とは、地表面に落下した雨や雪などの天水が集まり、海や湖などに注ぐ流れの筋(水路)などと、その流水とを含めた総称である」と物資的な側面のみに限定して定義されてきた。しかし、「川とは、地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾の中に、ゆっくりと時間をかけて、地域文化を育んできた存在である」というように、生物と一体にあるものとして川を定義すべきである。

ダムは、川の物質循環を遮断するものであり、川にとっては基本的に敵対物でしかない。ダム計画では、堆砂容量を水平に取っているがこのような方法が現実にあっていないこと、土砂吐けゲートや、土砂パイパス(十津川水系旭川旭ダム)による排砂設備のあるダムが極端に少ないことなどからも、単純な所でダムが抱える問題は大きい。今後のダム計画では、少なくとも土砂吐けゲートと土砂パイパスとを備えることは必要である。また、発電形態について見ると、阿賀野川・只見川は、発電のためだけの川になってしまっているし、信濃川中流部も発電用ダムが90%を取水するため川に水がない状態になっている。ダムは流量を一定化してしまうが、本来、流量は変動するものであり、ダムの放水の仕方も変動させるべきである。ダムは副作用の多い劇薬のようなもので、できれば使わない方がよい。ダムに頼らない治水を考えた時に、これまでの河道主義治水から、氾濫受容型治水を提案する。このような動きは、行政でも行われており、溢れても安全な治水対策が取られつつある(Table 1)。このうち、河川法第3条に規定された、樹林帯は伝統工法の水害防備林であり、京都の桂離宮や愛媛の肱川などにも見られ、洪水が堤防を越しても流れを緩やかにし破堤を防ぐ水制作用と土砂を止める濾過作用とがあり有効な対策である。


治水計画の主体は堤防による河道計画であり、ダムはその補助的役割を担う。堤防を矢板、連続地中壁、薬液注入、水害防備林による強化すること、あるいは、破堤しないようにゆっくり静かに越流させる加藤清正の「轡塘(くつわとも)」や、佐賀県城原川(筑後川右支川)の「野越し」など伝統的な方法を用いて、堤防によって氾濫を防ぐことが重要である。近年、治水に関しては、費用が増大する一方で、その効果は小さくなっている。費用対効果のバランスを取るのは誰かを考えた場合、専門家だけの判断でなく、地域住民を交えて総合的に判断する必要がある。住民参加の会議を進める際の留意点として、

 (1)完全公開型で進めること
 (2)時間をかけること(1年で10回程度の会議)
 (3)共通認識を高めること
 (4)相手の立場を尊重すること
 (5)互いに成長しながら、新たな折り合い点へ到達すること

などがあげられる。

また、河川の整備においては、巨大化、素材の人工化、専門化、画一化、自然破壊などの問題を抱えた近代技術を見直し、地域固有の自然素材、人との関わりの深い伝統的技術を再評価すべきであり、今後は、ローテクとハイテクの組み合わせによる、時間の蓄積を感じさせる、人と自然にやさしい、調和した空間を創出するべきである。

Q:樹林帯の敷地取得は可能か?
A:ダム建設のコストを考えると、金銭的には可能である。また確保しなくとも、減反を利用して樹林帯を作るといった工夫も可能である。


Q:越流による床下浸水の頻度はどのくらいか?ダムを壊すという動きもあるが、日本ではどうか?
A:頻度については70年から80年に一度という提案をしているが、住民からは逆に30年に一度くらいあってもよいし、そのくらいの頻度の方が世代間の伝承のためにも適しているという声もある。発電に関する水利権は30年ごと、農業用水は10 年ごとに見直しがあり、取水率は減らす方向で見直しが行われているが、発電所の方は難色を示す。また、日本でダムを壊すような動きはまだなく、現状を改善するという動きが中心である。


Q:私的レベル、共同体のレベルは伝統的、公共的レベルは現代的(Figure 1 参照)で、そこの折り合いをどうつけていくのか。また植栽が被害を生むという指摘もあるが、木の種類については?
A:水防団など伝統的な共同体は半ば強制的な側面があったが、現在行っている市民活動などは、稼ぐことだけでは物足りない市民の社会貢献の要素が強くなってきた。現代的なハイテク技術の整備によって余裕と時間ができコストの削減も可能になり、このような活動はしやすくなっている。植栽によって被害があったという例は探してみると実際には少なく、高木を一本だけ植えるというのは問題だが、ケヤキや檜など高木でもよいし低木でもよい。


Q:河川を蛇行させるという動きについてどう考えるか?ラバーゲートの漏水については?
A:多自然型の河川整備が行われているのは事実。ただし、洪水流下能力との兼ね合いですべてを蛇行型にするのは不可能。ラバーゲートでは漏水はなくなり、自然環境は全く変化してしまい、事前に予測できないような自然破壊が起こることもあり得る。


Q:市民会議の形態についてのいくつかの質問。市民との会議において専門的情報は誰が提供しているのか?上下流の利害の問題については?意識の低い市民はどうすべきか?住民の意識を高め、それが自主防災へとステップアップするために必要なことは?会議での先生の役割は?コンサルタントがいるのか?決め言葉のようなものはあるのか?
A:情報は行政が提供している。実は、新潟県には教え子が100人以上いるのでやりやすい。また行政と市民の間に調整役として、大学の専門家である私が入っていることも会議にとって重要である。コンサルタントはいるが、意見は住民には受容されにくい。上下流の利害の問題は重要であるし、自主防災へのステップアップのためにも、会議を完全公開にしてかくすことない議論をすることが必要。市民の意識は高まりつつあり、今後市民の関心は高まっていくだろう。多数決型でない対話型民主主義を確立すべき。会議では、「効率から美へ」ということを強調している。美というのがキーワードである。

記:元吉忠寛(特別研究員)




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