令和3年度成果発表会
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2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2022.2.28令和3年度成果発表会(左)観測された水圧変動記録と過去に発生した地震時の水圧記録の比較,および(右)観測記録を説明する数値シミュレーションの結果における,低気圧,海面波高,および海底水圧分布のスナップショット.S-netは,常時データの観測を行なっているにもかかわらず,これまでは地震に紐づいた時間帯の波形しか着目されてきませんでした.本研究は「地震が起こっていない時間帯」の波形記録にも地球物理学的に重要なシグナルが含まれていることを示しており,S-netが気象・海洋学分野をはじめ地震以外の分野の研究にも貢献しうる観測網であると言えるでしょう.また,シミュレーション結果からいくつか興味深いことも分かりました.まず,海面の波高変化により生じる海底での圧力変化は,S-netの水圧計が実際に観測する水圧変化と必ずしも一致しませんでした.これは,海面では低気圧によって吸い上げられて波高が上昇するのに対し,海底ではそれが低気圧による圧力減少ぶんで打ち消されることが理由です.さらに,条件を変えてシミュレーションを行なった結果,低気圧の移動速度を極端に速くしたり遅くしたりすると,気象津波が生じませんでした.これは,東北沖での気象津波の発生および増幅には,低気圧の移動速度が重要な要素である,ということを意味します.地震津波防災研究部門・地震津波火山ネットワークセンター久保田達矢概要2020年7月2日,地震が発生していない時間帯に,S-net海底水圧計が津波に似た波を記録しました.このとき,沿岸気象観測データによると,低気圧が太平洋を通過していました.津波は,地震以外にも大気の乱れによっても生じることが知られており,『気象津波』と呼ばれます.気象津波は,単に低気圧によって海面高が上昇する『高潮』と異なり,低気圧の移動に伴って波高が増幅する現象で,ときには沿岸地域に被害をもたらします.気象観測データをもとにして気象津波の発生シミュレーションを実施したところ,観測波形が非常によく再現されました.そのため,この波は気象津波が原因であると言えます.今後の展望・方向性これまでの気象津波の研究では,沿岸の検潮記録が広く用いられてきました.しかし,検潮波形のなかには周辺の海岸の地形などに起因する複雑な効果が含まれており,解析が難しいという問題がありました.これらの効果を含まない,陸から遠く離れた沖合に展開されたS-netの記録の記録を活用することで,気象津波の発生メカニのさらなる理解につながると期待されます.Point■S-netの水圧計が津波とよく似た海面の変動を観測■その原因は海上を移動する低気圧が引き起こした『気象津波』■S-netは地震学のみならず海洋・気象分野の研究にも貢献S-net津波計が観測した『気象津波』

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