令和3年度成果発表会
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2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2022.2.28令和3年度成果発表会雲レーダーによって観測された2016年台風18号(アジア名チャバ、右下)の上層雲(左上)。雲の底の部分に多くの凹凸部が見られる。右下の×印の位置で、2016年10月3日10時20分(世界時)に観測された。台風の上層雲において比較的出現の多い現象であることがわかりました。レーダーで凹凸部の鉛直速度を測定したところ、上昇気流、下降気流ともに3m/sほどの大きな速度をもっており乱気流を起こす可能性があることがわかりました。また、気球観測からこの凹凸部付近では局所的に上下動が生じやすい大気状態になっていることも明らかになりました。観測では、比較的時空間的に広がりを持っていることはわかりましたが、凹凸部が生じていない部分もありました。この細かな凹凸構造を解像しながら台風全体を再現するような大規模な数値シミュレーションによって、出現域のさらに詳細な特徴と、出現の条件を明らかにする必要があります。水・土砂防災研究部門大東忠保概要台風に伴って激しい風や、大雨がもたらされることは広く知られています。衛星画像でよく見られるように、台風の中心では風が弱く雨も降っていないような目が存在しますが、その目を取り囲むように激しい雨をもたらす積乱雲が円弧状にならぶ壁雲が存在します(図右下)。壁雲が存在するのは台風の中心から50km前後の距離になりますが、その付近では台風の中で最も地上の風速が強くなります。それよりも外側に向かうほど、また上空に向かうほど風速は弱まるのが一般的です。台風の上空では台風の中心から外側に向かって風が吹き出しており、壁雲付近の背の高い積乱雲で作られた氷雲が中心から数百kmにわたって広がっています(図右下)。この台風の上空で外側に広がる上層雲付近は、強い水平風や鉛直風、降水を伴うことのない比較的静穏な場所だと考えられていました。雨粒よりも小さな雲粒を測定する雲レーダーによって、このような地上に落ちてこない上空の氷粒子の観測を実施したところ、図左上に見られるように、上層雲の底の部分に凹凸のある構造が発見されました。この凹凸はこの図に示される2016年台風18号チャバだけでなく、2018年台風20号シマロン、2019年台風20号ノグリーでも観測され、また時空間的にも広がりを持っており、台今後の展望・方向性凹凸部は乱気流をもたらす可能性があるため重要ですが、凹凸部が生じることによって上層の雲は周囲とかき混ざりやすくなり、雲の消失を促す方向にはたらくと考えられます。上層雲は、様々なプロセスを経て台風の経路を決める重要な要素であることがわかっており、この凹凸構造の有無が台風の経路に影響を与えている可能性があります。Point■台風の上層雲の底に見られる凹凸部■強い上下動を伴い乱気流を引き起こす■上層の雲の消失・台風の経路にも影響を与える可能性台風の上層雲の乱気流

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