令和3年度成果発表会
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2022.2.28令和3年度成果発表会図2021年7月10日午前3時における前3時間積算雨量に対する大雨の稀さ(再現期間)。(左図)観測、(中図)水蒸気ライダー同化ありの予測、(右図)水蒸気ライダー同化なしの予測。予測積算雨量は、最初の1時間は観測、次の1時間は気象庁高解像度降水ナウキャストの予測、最後の1時間はデータ同化を行った気象数値モデルによる予測を利用し、特許申請済みの手法により予測の位置ズレを考慮した上で積算している。観測データは、文部科学省の補助事業により開発・運用されているデータ統合解析システム(DIAS)の枠組みのもとで収集・提供された国土交通省XバンドMPレーダーのデータを基に作成された。このような線状降水帯に伴う大雨による被害を軽減するために、防災科研では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の一環として、線状降水帯に伴う大雨を高頻度(10分毎)に2時間先まで高解像度(1km)で予測する「線状降水帯発達予測システム」の開発を進めています。本システムを用いて最新の水蒸気観測(水蒸気ライダー)をデータ同化と呼ばれる技術で予測に取り込むことで、本事例の大雨の予測精度が向上しました。図に大雨の稀さを表す再現期間と呼ばれる量を観測と予測に対して示します。再現期間が長いほど、その場所での大雨が稀であり、災害の危険性が高いことが示唆されます。大雨の稀さ(再現期間)図を見ると、2つの線状降水帯により大雨がもたらされ、再現期間が長い2つのラインが観測されていることがわかります。2つのラインのうち北側のラインを見ると、水蒸気ライダーの同化を行うことで予測雨量が増加し、ピークの位置は15km程度北東にずれているものの、同化なしでは予測されなかった10年に一度の稀な雨の予測に成功していることがわかります。今回示した予測は土砂災害警戒情報よりも40分早く、災害につながる可能性の高い大雨の発生を予測できており、既存の警戒情報よりも避難に向けたリードタイム(猶予時間)を長く確保できる可能性があることを示しました。水・土砂防災研究部門加藤亮平概要近年、線状降水帯に伴う大雨による被害が毎年のように発生しています。線状降水帯とは発達した雨雲が次々とほぼ同じ場所を通過することで作り出される強い降水を伴う線状の雨域です。2021年7月10日にも線状降水帯に伴う大雨がもたらされ、鹿児島県を中心に床上浸水74件等の大きな被害が発生しました。Point■2021年7月10日に線状降水帯に伴う大雨で大きな被害が発生■最新の水蒸気観測をデータ同化という手法で予測に取り込んだ結果■リアルタイム2時間先大雨危険度予測の精度が向上した今後の展望・方向性現状では予測される大雨の量や位置等の誤差があり、予測精度が十分とはいえないケースがあります。今後は、予測される大雨の量や位置等のさらなる精度向上を目指して、最新の水蒸気観測(地表付近の水蒸気の水平分布を観測できる地上デジタル放送波観測)のデータを同化するなど、研究を進めてまいります。〜最新水蒸気観測データ同化による予測精度向上〜線状降水帯の高精度予測

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