2023.2.21令和4年度成果発表会噴火に伴う津波の発生と伝播の様子。300 m/sの速度で大気ラム波が広がるのに合わせて、海面の隆起の波(赤) が周囲へと伝播する。その後、少し遅れて津波の速度で沈降の波(青色) が伝播する。これらに加え、海底地形の凹凸に起因して微小な波が生じている。2022年1月15日、南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山で大規模な噴火が発生した。世界の海底に展開された水圧観測網が、地球規模で伝播する津波を明瞭に観測した。この津波の特徴的な点は、その第一波が予想津波到達時刻よりも数時間ほど早く到達した点である。過去の地震による津波では予想よりも速く波が到達するということはなかった。この噴火に伴い世界に展開された大気圧観測網が火山から約300m/s の速度で地球規模に伝播する気圧の増加の波を観測した。これは「ラム波」と呼ばれる大気の波の一種である。ラム波が火山から同心円状に伝播すると、海面での大気圧が変化する。本研究では、大気ラム波による海面での気圧変化を原因として生じる津波の発生・伝播を数値シミュレーションをもとに調査した。シミュレーションにより得られた津波の波高変化の様子を図に示す。ラム波の伝播に対応して伝わる海面隆起の波が確認された(図中、赤色)。これが地球規模で観測された「予想よりも速く到達した津波」の原因である。隆起の第一波に続、太平洋での平均的な津波の伝播速度(約200~250 m/s) で伝わる海面沈降の波も確認された(図中、青色)。また、これらの明瞭な2種類の波のほかに、津波の散乱や海面の微小な変動が生じている様子も確認された。これらは海底地形の形状(凹凸) に由来して生じた副次的な津波であると解釈される。これまで2011年東北地方太平洋沖地震などを契機に津波の研究が大きく発展し、津波観測網は津波研究や警報に広く活用されてきた。その一方で大気の波によって生じる津波の研究はこれまでなされず、警報の仕組みも整備されてこなかった。今回のトンガの火山噴火に伴う津波は、従来とは異なる新たな津波の基礎研究の重要性および火山津波のリスク・ハザード評価の重要性を示すものであるといえる。Point■2022年1月のトンガの火山噴火では地球規模で津波が観測された■噴火に伴い生じた『大気ラム波』が通常よりも速く伝わる津波を生じさせた■火山噴火による津波の発生と伝播に関する研究の必要性が明らかに地震津波防災研究部門・地震津波火山ネットワークセンター久保田達矢概要今後の展望・方向性シミュレーションでは通常よりも速く伝播した海底水圧観測記録の第一波を再現した一方で、第一波の到達から数時間以上遅れた後続部分は再現できていなかった。これは後続部分にはラム波以外の要因による津波が含まれているためである。例えば、噴火によって火山の山体の沈降や崩壊が起こり海底地形が変化すると津波が生じることがある。今回の噴火による津波発生を包括的に理解するには、そのような火山学的知見も必要であろう。2022年トンガ噴火による津波発生と伝播
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