■大地震のエネルギ収支に基づく断層強度推定手法を開発■過去30年間に世界中で発生した大地震の断層強度を推定■沈み込み帯のプレート間巨大地震の断層強度は極めて低い2019.○○.○○○○○○○○○○○○○岩石実験における大陸リソスフェア強度エンベロープ高い流体圧力2023.2.21令和4年度成果発表会QuartzOlivine(b)(b)(c)(a)地殻モホ面マントル図1.(a)世界中で発生したM7以上の地震の断層破壊過程モデルを用いた断層強度の推定値分布.点の色は強度の強さを表しており、青ほどは弱く赤ほどは強いです.M8以上のプレート間大地震は黒文字、津波地震は白文字、海嶺や断裂帯等で発生した地震は黄色文字で表示している,(b)沈み込み帯プレート間地震の断層強度推定値の深さ分布.赤と黄色マークは地震メカニズムを表しており、各地震の強度は深さ毎でプロットしている.マークの大きさは地震のマグニチュードを表す.赤い破線は断層強度推定結果を囲むような地殻の理論的な強度エンベロップです.エンベロップ線の内側に位置する点は極めて高水圧になっている,(c)岩石実験から提案されている大陸リソスフェアの強度包絡線.(Kohlstedtet al., 1995)世界中で発生する大地震は、地球のリソスフェア内に蓄積された応力のけんちょなしょうこですが、地震を引き起こす力(絶対応力)の知識は極めて不十分である。絶対応力の推定方法には、掘削探査における岩石応力の原位置測定等の方法がありますが、その推定値は主にごく浅部地殻に限られている。一方、室内岩石実験に測定される摩擦強度はリソスフェア強度の推定のためよく使用されるのですが、室内実験では大地震発生時と同様の物理条件を満たすことは困難である。さらに、流体圧力が断層強度に大きな影響を与えますが、沈み込み帯の強度及び流体圧力特性の知見もほとんど不完全である。本研究では、不均質な断層破壊過程を考慮した大地震のエネルギー収支を用いて、リソスフェア内の断層強度および流体圧力の推定を行った。過去30年間に世界中で発生した大地震の断層強度を推定した結果、世界中のほとんどの沈み込み帯の断層強度が極めて弱いと明らかにした(図1a)。これは、沈み込み帯のプレート間では極端な流体圧力が発生していることを示す(図1b)。さらに、沈み込み帯の断層強度の深さ分布は、地殻の凡そ半分の深さでは強度推定値が最大になり、モホ面に向かって減少していく様子が分かる(図1b)。この特性は、岩石力学実験から提案されている大陸リソスフェアの強度包絡線とよく一致していることが分かった(図1b,c)。本研究では大地震が発生する沈み込み帯の断層強度が非常に弱く、プレート境界で閉じ込められた流体の圧力は極めて高いことを示しており、巨大地震発生に大きな影響を与えていることが分かった。さらに、下部地殻から上部マントルの付近では強度が非常に不均質であり、世界中の多くの沈み込み帯においてゆっくりすべり本研究で得られた断層強度分布や強度エンベロップの推定結果は大地震発生の予測精度向上への貢献が期待される。現象とともに微動が活発に発生するため、リソスフェアのこの周辺の断層強度および流体圧力に関する詳細な研究を行う必要がある。また、本研究で推定したスケーリング則や断層強度エンベロップを用いて南海トラフや東北沖等のプレート境界で発生する大地震の破壊予測(シナリオ)への適用について検討を行う。地震津波防災研究部門プリードネルソン世界中の大地震における断層強度
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