令和4年度成果発表会
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■どこが甚大な被害を受けるのか規模感の早期の把握■九十九里・外房地域の詳細な津波高、浸水域、浸水深の予測■津波発生時の浸水予測のみならず、平時の図上訓練での活用2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会千葉県に導入した津波浸水予測システムの概念図千葉県では、日本海溝海底地震津波観測網(以下、S-net)を用いた津波浸水予測システムを構築し、現在運用されている。このシステムは和歌山県や三重県、中部電力に導入したシステムと同様のもので(Takahashi et al., 2017; 2018; 石橋ほか, 2018; Takahashi and Imai, 2022)、S-netで津波を観測すると、その津波高さの空間分布に従い、各予測対象地点の津波到達時刻、津波高、浸水深分布と浸水エリアを即時的に示すものである。千葉県では、2011年の東北地方太平洋沖地震のみならず、1677年の延宝地震、1703年の元禄地震など、これまでに多くの津波被害を繰り返し受けてきた。これらの経緯を踏まえ、想定する津波は、日本海溝から伊豆・小笠原海溝にかけての海域、ならびに、相模トラフ沿いの海域を対象としている。この海域にマグニチュード(M)7.5から8.5まで、さらに深さと傾斜にばらつきを持たせ、2600ケース超の断層モデルを設定した。浅い断層モデルも設定しているため、浅部で海底地すべりが発生して局所的に大きな津波が発生したとしても、S-netで観測できれば予測に反映することができる。使用したS-net観測点は、猶予時間と運用コスト低減を念頭に、福島県沖以南の観測点のみとした。予測対象地点は、南房総市から銚子市に至る九十九里・外房地域としている。このシステムは、長時間平均と短時間平均をリアルタイムで計算し、その比を取ることでトリガーをかけている。この方法により、長周期のノイズが混入しても、津波を適切なタイミングでトリガーをかけることが可能である。しかし、S-netは浅海から深海まで幅広い範囲に設置しているため、各観測点のノイズレベルがまちまちであること、インラインシステムとして水圧計を取り付けているため、センサーの回転に応じて津波の周期に近いノイズが混入することに対応する必要があった。また、津波のトリガーがかかると、その時刻からの相対水位が津波の観測値となるため、線形的に観測値のオフセットが増加するような観測点は予測の過大評価につながる。これらを踏まえ、各観測点のノイズの特徴を抽出し、津波予測に不適な観測点、高いノイズレベルにより観測値の誤差が大きいと考えられる観測点、精度の高い観測が実現できている観測点に分け、それぞれのノイズに対する閾値などのパラメータを設定した。津波の周期に近いノイズの混入については、混入直後の即時的な判断は困難であるため、観測した津波高の空間的な比較と、津波伝播の状況からノイズと判断できれば、津波トリガーをキャンセルする形を採用している。千葉県内の震度計を用いた地震被害予測システムとも連携し、地震被害予測と津波浸水予測の統合を進めるとともに、統合されたシステムを用いて、毎年、訓練を千葉県下で実施し、発災時でのスムーズな運用に備えたい。千葉県における津波浸水予測システム地震津波火山ネットワークセンター高橋成実

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