■本震の発生後、地下の歪みエネルギーのバランスが変化■本震による歪みエネルギーの増加域に余震活動が集中■余震活動が広範囲に及ぶ場合に対応関係は明瞭2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会熊本地震の本震による歪みエネルギーの変化(赤:増加、青:減少)と余震活動(黒丸、マグニチュード2.0以上、深さ20 km以浅)。地震は、地下の岩盤に蓄積された歪みエネルギーがその限界(強度)に達したときに、急激な断層運動によってその一部を解消する現象です。断層周辺の岩盤の強度やそこに蓄積されている歪みエネルギーの大きさは直接測定することができないため、地震がいつ、どこで起こるかを事前に予測することは、現状ではきわめて難しいと考えられています。一方、地震が発生すると、地下に蓄積された歪みエネルギーのバランスが変化し、規模の大きい地震(本震)の後には、続いて多数の地震(余震)が発生することが知られています。例えば、2016年に発生した熊本地震(本震:マグニチュード7.3)では、その余震活動が帯状に広がり、長さ150kmにも及んだことが報告されています。本震によって生じた歪みエネルギーの変化は、通常の地震活動から推定されるその場所の応力場と本震の断層すべりの分布を用いて求めることができます。熊本地震の余震活動は、本震によって歪みエネルギーが増加した領域に集中して発生していることが明らかになりました(図)。また、日本の内陸で起きたマグニチュード6.0以上の地震についても同様の調査を行いました。歪みエネルギーの増加と余震活動の対応関係は一様ではないものの、本震の規本研究の結果は、余震活動の活発化の一因として、歪みエネルギーの増加が関係していることを示しています。今回の調査では、単純な断層すべりモデルを仮定しており、余震活動が広範囲に及ぶ事例では、このような単純なモデルでも余震活動の広がりを十分予測できる可能性が示されました。一方、余震が比較的狭い範囲で発生した事例では、歪みエネルギーの増加と余震活動の間に明瞭な対応関係は認められませんでした。今回設定した単純なモデルでは、本震近傍の歪みエネルギーの変化を正確に評価できていない可能性が考えられます。また、本震によって生じた流体の移動に伴う断層強度の低下との関連性を指摘する報告もあります。これらのメカニズムを明らかにすることは、余震活動の予測精度を向上させ、被害を軽減する上でも重要です。模に比べて余震活動域の広がりが大きい事例では、歪みエネルギーの増加域に余震活動が集中する傾向が確認されました。余震活動と歪みエネルギー地震津波火山ネットワークセンター田中佐千子
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