令和4年度成果発表会
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■スロー地震の数値シミュレーション計算をGPUを用いて高速化■長期間のスロー地震の数値シミュレーションが可能に■スロー地震と大地震の関係について、より高精度なモデル化が期待2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会開発したプログラムによる数値計算結果の例。(a)設定した摩擦パラメター(a-b)の分布。赤線Bは(b)ですべり速度を示した測線の位置。(b) 測線Bでのすべり速度の時間発展。上部の青矢印は大地震発生を示す。長期的、短期的スロースリップイベント発生領域の深さをそれぞれ左右の橙、緑矢印で示した。(a)(b)スロー地震は大地震の発生が予想される領域の周辺で発生しており、また2011年東北地方太平洋沖地震など大地震の前に発生する場合もあるため、地震発生と何らかの関係があると考えられている。また、スロー地震は、微動から大規模なスロースリップイベントまで様々なスケールのものが存在するが、その規模が継続時間に比例するなど、通常の地震とは異なるスケーリング則に従うことが分かっている。さらに、スロー地震にみられるゆっくりしたすべりが、どのように高速なすべり現象である地震へと発展するかを知ることは、大地震の発生を予測する上で、非常に重要な問題である。我々はこれまで、スロー地震を大規模数値シミュレーションにより再現する研究を行ってきたが、様々なスケールのスロー地震を統一的に説明し、こうした課題に迫るためには、より細かなスケールを含む計算が必要となる。そのため、GPU(Graphics Processing Unit) を用いることで、高速な計算が可能となるようプログラムの開発を試みた。なお大規模計算のためには、複数ノード上に分散配置されたGPUを使用する必要があるため、マルチノード環境で実行可能なプログラムを作成した。多くの大地震発生サイクルにわたる数値シミュレーション計算が可能となることで、スロー地震や地震の発生にどれだけのばらつきが発生しうるかを議論することができる。こうした事象発生のばらつきを評価し、観測と比較することで、スロー地震および地震のモデルがどの程度妥当であるか、どのようなモデルがより現実的であるかを明らかにできることが期待される。まず、すでに論文出版済みの小規模なモデル(四国モデル)について適用した。その結果、同じ計算結果が得られることが確認されるとともに、CPUのみを利用した場合に比べ、1ノードあたり約24倍の高速化が実現した。図には中規模なモデル(南海トラフ全域)で、計算を実施した例を示す。本プログラムにより、1000年以上の期間にわたる計算が可能となり、大地震のサイクルごとにスロー地震の発生が若干変化する可能性が示された。さらに様々な規模のスロー地震および地震が一つのモデルで、統一的に再現可能となることで、スロー地震と大地震の関係や、ゆっくりしたすべりが地震の高速なすべりへどう発展しうるかが解明されることも期待される。こうした研究が進展することで、大地震発生過程の理解と予測に、スロー地震の観測結果を役立てられるようになることが期待される。スロー地震シミュレーションのGPUによる高速化地震津波火山ネットワークセンター松澤孝紀

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