令和4年度成果発表会
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AB■火山噴火の多様性をもたらす火道流(マグマの上昇過程)■火道流を、ガス・メルト・結晶からなる混相流としてモデル化■噴火の発生や推移、火山災害の予測をめざす2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会火道流の数値シミュレーションの計算例(A)と火道流がもたらす地殻変動量の計算(B)火山噴火は、巨大な噴煙の形成や広域への降灰を伴う爆発的なものから、溶岩流や溶岩ドーム形成を伴う穏やかなものまで、非常に幅広い多様性がある。また、同じ火山の一連の噴火過程でも、噴火様式が急激に変化することがある。この多様な噴火様式は、火山災害の発生領域や種類にも多様性をもたらし、これが噴火時避難などの災害対応を極めて困難なものにしている。噴火の多様性をもたらす主な要因の一つとして、地下における「火道流(かどうりゅう)」というマグマ上昇過程が挙げられる。地下の高圧状態で水などの揮発性成分が溶け込んでいるマグマが火道内を上昇して減圧すると、発泡が生じてマグマが膨張・加速し、爆発的噴火になる。一方、気泡がマグマから効果的に離脱(脱ガス)すると、マグマが膨張せずに減速して穏やかな噴火になる。本研究では、火道内におけるマグマ上昇中の発泡と脱ガスの競合、さらに結晶化などの、複雑な物理過程を考慮した火道流数値モデルを開発した。このモデルに基づき、マグマの上昇速度や発泡度、つまり噴火様式が急激に変化する過程を数値シミュレーションによって再現することに成功した(図A)。今度の展望として、現在桜島で繰り返し発生しているブルカノ式噴火について、本研究で開発した火道流・地殻変動数値モデルを適用し、実観測データと比較することで、噴火発生・推移の予測可能性をより実証的に検証することを計画している。また、火道流数値モデルについては、伊豆大島、富士山などの他火山における噴火事例を対象とした解析に取り組む。火道流の急激な変化は、火道周囲の地殻変動をもたらし、それが地表における傾斜や歪の変化として観測によって検知される可能性がある。本研究では、火道流がもたらす地殻変動のシミュレーションも併せて実施し、噴火様式の変化に伴う傾斜・歪変化の特徴を明らかにした(図B)。これによって、噴火の発生や推移の予測において必要となる観測可能量を抽出することに成功している。火道流数値モデルでは、噴火強度を強く規定する「マグマ噴出率」の変動過程を詳細に調べることができる。このマグマ噴出率は、降灰の範囲、溶岩流や火砕流の到達距離など、火山災害の程度に直結する極めて重要なパラメータであることから、火道流数値モデルの更なる開発と解析によって、直接的に火山災害の予測精度を高度化していくことをめざす。火山防災研究部門小園誠史火道流の数値シミュレーション

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