令和4年度成果発表会
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■噴火表面現象や噴出物の解析から噴火の特徴を捉える■硫黄島火山におけるマグマの噴出を観測史上初めて確認■活動的なカルデラ火山のマグマ供給系の実態解明を目指す2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会小笠原硫黄島は東京の南約1200kmの伊豆-小笠原島弧南端部にある活火山です。活発な地殻変動、地震活動、熱水活動が続いています。防災科研では1968年以降、調査・観測を続けてきました。2011年頃から火山活動が特に活発な状態にあり、地盤の隆起が速く(年間50cm~1m程度)、各地で小規模な水蒸気噴火が度々発生していました(図1)。2022年7月11日から8月9日にかけて南海岸の翁浜沖で小規模ながら爆発的な噴火が繰り返し発生しました(図2)。噴出物の一部は軽石質で海面を浮遊しました。漂着した大きな軽石は急冷した火山弾の構造を持っていました(図3)。試料の観察や分析を進めた結果(図4、図5)、硫黄島火山のこれまでの噴出物とよく似たカンラン石含有単斜輝石粗面岩でした。同様の噴火が10月上旬や12月上旬にも再発しました。今回の噴火は、マグマが外来水(地下の熱水もしくは海水)と接触しつつ噴出した水蒸気マグマ噴火であったと推定されます。マグマの噴出が確認されたのは、記録が残る19世紀末以降で初めてのことです。硫黄島火山の地殻変動傾向や断層群、噴火地点のパターンは、カルデラ地下浅部に逆円錐型にマグマ貫入が生じているとすると概ね説明できます(図6)。今回の噴火ではそのマグマの先端の一部が外来水に触れて破砕しつつ噴出したと考えられます。しかし噴出量は少なく、噴火の前後で地震活動や地殻変動などに顕著な変化も観測されませんでした。おそらくこれまでと同様に上昇してきたマグマが地下に留まる貫入活動が主要であり、マグマの噴出は副次的な現象と考えられます。〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇今回得られた噴出物試料は貫入マグマについての貴重な情報源です。なぜマグマが基本的に地下に留まるような活動を続けているのか、岩石学的解析を進めて答えを得たいと考えています。また、翁浜沖の火口も含め硫黄島周囲の海底の変動についてはほとんど明らかになっていないので、共同研究機関と調査船による海底調査の実施を計画しています。謝辞:現地調査に際して防衛省・海上自衛隊のご協力を頂きました。気象庁機動観測班には試料を提供して頂きました。火山防災研究部門長井雅史小笠原硫黄島火山の2022年翁浜沖噴火

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