令和4年度成果発表会
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少図線状降水帯形成初期における2時間先の3時間積算雨量の予測精度。横軸は1-空振り率、縦軸は捕空振り率、縦軸は捕捉率、破線はバイアススコア、紫の実線はスレットスコアの等値線。検証に用いた閾値は、80mm/3h。■防災科研で開発した線状降水帯予測システムの精度を検証■線状降水帯の形成初期における雨量予測の精度向上を実証■雨量予測の過小評価を改善し、見逃しの軽減に大きく貢献2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会少見逃し見逃し見逃し位置ズレ補正あり位置ズレ補正なし空振り空振り線状降水帯は、数時間にわたって強雨が持続し、河川の氾濫や土砂災害をもたらします。そのため、特に数時間の積算雨量を高精度に予測することが防災の観点から重要となります。昨年度は、気象庁の現業予測を用いて、3時間積算雨量の予測精度を検証し、警報発令や避難決定のタイミングを左右する線状降水帯の形成初期で著しく精度が低下することを示しました。防災科研では、これまで戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の一環として、九州地方を対象に「線状降水帯予測システム」の開発を進めてきました。本予測システムでは、実況に基づく補外予測と数値予測を併用するブレンディング予測を行うことで、2時間先の3時間積算雨量を予測しています。一方、補外予測と数値予測で得られる雨域の位置には誤差が生じるため、両者を足し合わせた積算雨量は観測と比べて過小となることが予想されます。そのため本予測システムでは、位置ズレ補正機能として、各格子点の雨量を周辺の最大値で置き換える最大値フィルターをそれぞれの予測に適用しています。今年度は、防災科研で開発した予測システムの精度を統計的に検証し、線状降水帯の早期発生予測への有効性について調査しました。図は、線状降水帯21事例における形成初期の予測精度を平均したものです。比較として、気象庁の現業予測(青三角)および位置ズレ補正を適用しなかった場合(黄三角)の結果も示しています。これら二つの予測は、ともにバイアススコア(破線)が0.5以下となっており、線状降水帯に伴う強雨域を大幅に過小評価していることが分かります。これは、線状降水帯の発生を適切に検知できない可能性を示唆しています。一方、図の赤三角で示されるように、位置ズレ補正を適用することによって、過小評価が解消され、捕捉率(縦軸)も大幅に増加していることが確認できます。この結果は、「ブレンディング予測」と「位置ズレ補正」の組み合わせによって、線状降水帯の発生の見逃しを軽減できる可能性が高いことを示しています。ここでは線状降水帯の形成初期における平均的な精度を示しましたが、実際は事例によってばらつきが見られます。特に精度が低かった事例については、その要因について今後より詳細に調べていく必要があります。また、予測精度の向上に向けて、位置ズレの方向や距離などの統計的な特徴やその要因についても検証していく必要があると考えています。過大過小気象庁速報版降水短時間予報線状降水帯の早期発生予測~雨量予測の過小評価を改善する技術~水・土砂防災研究部門初塚大輔

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