令和4年度成果発表会
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■地元有識者の経験則の裏にある科学的思考の見える化■科学的根拠に基づく雪崩情報の具体的な活用方法に関する検討■地方自治体との共創に基づく地域の魅力向上2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会スキー場の管理関係者と情報プロダクツを共有するシステムニセコは,良質なパウダースノー,それを安全に楽しめるバックカントリー等のハイクオリティーサービスを求めて国内外からの観光客が訪れる国際的なスキーリゾートです.ニセコでは「スキー場が雪崩発生危険度に応じてコース外に出られるゲートを開閉することで,滑走の自由と最低限の安全規制を両立させながらコース外のバックカントリーを許可する.」という画期的な「ニセコルール」を実施しており,それがニセコの最大の魅力となっています.ニセコルールにおけるゲートの開閉の判断は,現在は地元の有識者の経験に基づき毎朝実施されています.一方でインバウンドの増加に伴い,ゲートの開け閉めの基準に対してきちんと説明できる科学的根拠を求める声が増加しています.さらには,ニセコルールを継続的に運用する人材や組織体制をどうするかに関する課題も浮かび上がってきました.このようなニセコルールの高度化,継続に関する課題に関して,地元の自治体やスキー場関係者から,防災科研に相談が寄せられました.そこで防災科研は,ニセコルールの高度化・継続に関する取り組みを実施してきました.まず取り組んだのは,有識者の経験則の裏にある科学的思考の見える化です.それに基づきニセコにおいて雪崩の危険性の判断に重要となる情報は,「吹き溜まりの発達」ならびに「その安定過程に関する情報」であるという結論に達しました.そこで吹き溜まりを考える上で重要となるニセコ山域の風の面的状況をリアルタイムで把握するシステムを構築しました. さらに現状情報の見える化に加え,気象予測モデルと防災科研のシミュレーション技術を組み合わせることで,雪崩の面的危険度に関する数時間先の予測情報の見える化も可能としました.最終的には創出した情報プロダクツを,スキー場の雪崩管理の関係者と共有できるシステムを構築し,有識者がどのような思考プロセスを経て,雪崩の危険性を判断しているかを見える化し,それを関係者間で共有可能としました.このシステムは一昨冬からリアルタイムで稼働し,スキー場関係者にみてもらっています.実際に現場で我々の情報を使ってもらいフィードバックをもらう過程で,研究者と現場との意識のギャップの存在にも気付かされました.研究者はどうしても安全側に大きくマージを取る傾向があります.一方でスキー場を管理している側としては,来てもらったお客にいかに楽しんでもらうかを優先的に考えます.そのようなバランスの上で,最終的に我々の情報を基に,どのような基準でゲートの開閉を決めるかという点に関し,現在も現場と一緒になって議論・検討,改良を進めています.最近,スキー場関係者からは「今後温暖化によってニセコの売りのパウダースノーはどうなっていくのか?」という質問をよくされます.それに答えるべく「気候変動が冬季観光に与える影響」等に関しても今後は研究していきたいと思います.国際スキーリゾード・ニセコにおける雪崩事故防止に資する情報プロダクツの創出雪氷防災研究部門山口悟

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