令和4年度成果発表会
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-ひょう害を例として-2019.○○.○○○○○○○○○○○○○2023.2.21令和4年度成果発表会図.2022年6月2日のトウモロコシのひょう害(左、埼玉県上里町)とナシ園の多目的防災網(右、茨城県石岡市)近年、異常気象に伴う豪⾬等の⼤規模な自然災害の発生頻度が増加傾向にあり、農林水産関係の被害も多く発生している(2021年被害額1,955億円、農水省)。そのなかで特に、ひょう等の激しい現象による災害は発生が局地的で短時間であることから、現状では予測が難しい。最近では2022年6月に、埼玉、群馬、千葉を中心に降ひょうがあり、埼玉県で約38億円、群馬県でも約8億円の農業被害となった。特に埼玉県では、本庄市や上里町など15市7町で甚⼤な被害が発生し(図左)、県は条例に基づき特別災害に指定した。農業において、ひょう害は特に対策の難しい災害とされるが、単位面積当たりの被害金額が⼤きくなりやすいナシ等の果樹栽培においては、多目的防災網(図右)の設置が有効とされ、ひょう害の多い北関東を中心に設置が進んでいる。多目的の名が示す通り、防ひょうだけでなく、防風や防鳥のほか防霜対策としても効果を発揮することから、近年、他地域でも設置が広がる傾向にある。ただし、設置費のほか、展張、収納等網の開閉にかかる作業も高齢化が進む農家にとっては負担である。降雪による破損を防ぐため、網は通常、晩秋には収納するが、降雪と降ひょうの可能性が共存する春期はナシの開花時期とも重なり、開閉に関する迅速な判断と操作が求められる。そのため、きめ細かな降雪や降ひょうの予測情報とともに、それに応じた網の開閉操作が必要であるが、現状では開閉に半日~1日程度かかりすぐには対応できない。そこで今後、気象予測情報に対応できる網の開閉技術の開発が求められる。例えば、農家がスマホ等で気象情報を確認後、短時間で操作できると効果的と考えられるが、一般に農地は広く、また分散していることも珍しくないことから、API等により気象情報に合わせて自動で開閉するシステムがあれば、より被害の軽減につながると思われる。また、ひょうは農作物だけでなく、車や建物等に被害を及ぼすほか、時には人的被害ももたらす。農作業は、通常、単独、もしくは複数であっても距離を置いて行われていることが多く、下や作物を見て集中していたり、農業機械の騒音のなか行われることが多いなど、積乱雲の接近をはじめとした天気の急変に気づきにくい側面がある。そのため、スマホ等からの情報収集は重要であるが、農作業時に高頻度にスマホを確認することは難しい。そこで、⾬雲等の接近を知らせるアラート機能を積極的に活用することが有効である。また、積乱雲は極めて短時間に発生、発達する場合が多いことから、気象情報にばかりに頼っていては間に合わないことも考えられる。したがって、「急に冷たい風が吹いてきた」とか「真っ黒い雲が近づいてきた」といったいわゆる予兆を含めた観天望気を普段から意識しておくことも重要である。さらに、避難場所に関しては、農地には通常、頑強な建物は無い場合が多いことから、軽トラックやキャビン付き農業機械等への避難が現実的であろう。温室等の農業施設が震災時に避難所として機能した例があるが、降ひょう時には特に割れた天井面のガラスが落下する危険性もあるなど、避難場所とは考えない方がよいと思われる。農業気象災害は、時として営農意欲の衰退に結びつき、離農の要因ともなりうる。農業は、食料生産だけでなく国土の保全も担う重要な産業であることから、引き続き、さまざまな農業気象災害の軽減に向けた取り組みを進めることが必要である。積乱雲に伴う激しい現象による農業気象災害の実態と対策水・土砂防災研究部門横山仁■近年、激甚化する自然災害によって多発する農林水産業被害■ひょうや突風等の激しい現象による災害は、発生が局地的で予測が難しい■気象情報の活用とともに、対策技術の高度化や現場での観天望気が重要

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