受賞一覧
2022年度日本雪氷学会技術賞を受賞しました
雪氷防災研究部門の安達聖特別研究員が、2022年度日本雪氷学会技術賞を受賞しましたのでお知らせいたします。技術賞は、雪氷技術の発展に貴重な貢献となる研究または開発を行ったものに贈られる賞です。安達聖研究員が取り組んできた計測技術の開発と応用が、雪氷計測技術および雪氷学の発展にとって顕著な貢献を果たしていると評価されたものです。
受賞題目
- 雪氷用MRI による湿雪試料の計測技術の開発と応用
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受賞理由
雪氷学をはじめとする自然科学において、計測技術は最先端の研究の発展を支える重要な基盤の一つである。積雪内部の浸透現象は雪氷学の未解決問題の一つであり、解明には浸透現象に伴う内部の水分分布の変化を精緻に可視化し、含水率を定量的に計測する必要がある。これまで、水分分布の可視化には色水をトレーサーとした浸透実験が実施され、また、含水率の計測には熱量式や誘電率式などの含水率計が用いられてきた。しかしながら、これらの計測では雪を破壊する必要があるため、同一の雪を用いて継続的に浸透の様子を観察することは不可能であった。したがって、浸透現象の解明には非破壊かつ三次元的な計測手法が望まれる。
安達氏は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)を用いた湿雪試料の非破壊三次元計測技術の開発に取り組んできた。MRI は主に撮像対象に含まれる液体の水を可視化する計測技術であり、医療分野において臨床診断に広く使用されている。しかし、湿雪試料の計測を実現するには、試料を設置する計測部の温度制御やMRI に使用される静磁場の歪みに起因した画像歪み、撮像時間などの諸問題を克服する必要があった。安達氏は、MRI の計測用コイルに液冷装置を、静磁場用の永久磁石開口部に空冷装置を実装することで、試料の温度制御をしながら安定して計測することに成功した。また、静磁場補正用コイルや画像処理による歪み補正手法を適用することで、歪みの少ない画像の取得に成功した。さらに安達氏は,高速撮像法を適用することで撮像時間の短縮を図るとともに、相反する関係にある撮像時間と画質について比較することで,湿雪試料中の水分分布を計測する際に最適な撮像法を選択するための指針を提案した。これらの独自開発した計測技術を用いることで、吸水と排水の各過程に対する雪の水分特性の計測や、雪試料内で選択流が発達する様子の可視化に成功し、世界に類を見ない極めて独創性が高い研究成果を生み出してきた。
このように安達氏は既存の計測技術に基づきながら、計測装置の改良や撮像法の最適化を図ることによって雪氷用MRI による湿雪試料の計測技術を確立し、雪氷研究にブレークスルーをもたらした。安達氏の開発したこの技術は,雪氷計測技術および雪氷学の発展にとって顕著な貢献を果たしていることから、技術賞に値する。
(引用元:「雪氷」第84巻第4号(2022年)395頁)