ネパール・ランタン谷の雪氷災害雪氷防災研究センター 砂子 宗次朗2020.2.13 令和元年度 成果発表会■2015年にネパールにて発生した雪崩に関する現地調査を実施■発生当時の堆積物量は681万m3、平均厚さ11.3 mと推定■雪崩運動モデルの改良及び堆積物の時系列変化が今後の課題2015年4月25日に発生した、ネパール中央部を震源地とする大地震によって引き起こされた大なだれにより、ランタン村は甚大な被害を被った。地震後に撮影された現地写真及び衛星画像データの解析により、村を覆う堆積物の範囲等は明らかにされていた一方、大なだれの体積や構成要素、発生回数等は未知であったため、2015年10月に現地観測を実施した。小型無人飛行機(UAV)を用いて取得した空撮写真にGPS観測から得た位置情報を付与し、StructurefromMotion(SfM)技術を用いて高解像度オルソ画像(解像度0.06m)及び数値標高モデル(DEM,解像度0.1m)を作成した。加えて、オルソ画像及びDEMから得た評定点を大なだれ発生直後に取得された空撮写真に付与し、SfM処理することで発生直後(5月7、10日)のオルソ画像及びDEMを作成した。さらに、ALOS-PRISM(解像度2.5m)のステレオペア衛星画像から作成された震災前のDEM(5m)を用いて、DEM間の差分から堆積物量を求めた。その結果、発生直後の堆積物の体積は6.81×106m3、平均厚さは11.3mと見積もられ、2015年10月時点では4月に発生した雪崩60%が残存していることが調査から明らかとなった。DEMの差分結果や村の住人への聞き取り調査から、4月25日の地震発生直後に村を襲ったのは積雪を起源とする雪崩であり、その後の余震(5月7-10日)によって複数回の岩なだれが発生し岩屑が雪崩堆積物表面を覆ったことが明らかとなった。2016年以降、ランタン村の住人を中心に村の移転に向けた活動が進められており、本研究でも既に再建する村候補地の雪崩危険性を評価し、情報提供を行っている。今後は、本研究結果から得られた堆積物の量及び分布を検証データとして雪崩運動モデルを改良し、移転候補地のより詳細な雪崩危険性評価を行うとともに、現地への情報共有が必要である。加えて、村を覆った雪崩堆積物の時間変化を理解するために、2016年以降有人航空機を用いた空中写真測量を複数回に渡り実施している。これらのデータを元に高解像度のオルソ画像及びDEMを作成し、本研究で作成したDEMとの比較を行うことで堆積物の残存量や時系列変化を明らかにする。本研究で用いた手法を基礎に、今後は国内の雪氷災害調査・研究においてもUAVや衛星データ利用を一層進めることで、より迅速かつ広域のデータ取得・解析を目指す。図1(a)作成したオルソ画像及び(b) 3Dイメージ、(c)地震前と地震直後(2015年5月)の数値標高データの差分から得た堆積量分布及び(d)3Dイメージ(a)(c)(b)(d)
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