科学的根拠に基づく雪崩情報提供ー スキー場の安全管理に資する情報の創出 ー雪氷防災研究部門 山口 悟2020.2.13 令和元年度 成果発表会■雪崩の発生危険性を簡単に観測できる新しい概念の装置の開発■観測データを活用した雪崩の発生危険性予測技術の向上■スキー場と組んだ社会実装実験による現場における科学的根拠に基づく雪崩情報の具体的な活用方法に関する検討近年バックカントリースキーの流行により,スキー場外を滑走する人口は増加傾向にあり,それに伴う雪崩事故も増えてきています.スキー場エリア外はスキー場管轄外ではありますが,いったん雪崩事故が発生すると,スキー場のイメージダウンは免れません.一方気象庁が出す“なだれ注意報”は,気象情報を基にした経験則から成り立っているために,冬中発令されていることも少なくなく,雪崩管理現場ではほとんど活用されていません.本研究では,スキー場における雪崩事故防止に真に資する情報を創出するために,従来にない新しい概念の雪崩の発生危険性を観測できる装置の開発とそのデータを活用した雪崩の発生危険性予測技術の向上を目指しています.また実際に北海道のニセコ町,倶知安町,ニセコスキーリゾートと組んで,今後研究を通じて生み出される科学的根拠に基づく雪崩情報を,どのように実際の現場で活用するかに関する社会実装実験も実施します.雪崩の発生危険性を観測できる装置の開発に関しては,雪崩発生の危険性を知るために必要な雪の形,硬度,密度,含水率の情報を効率よく測定するための技術開発を実験・観測を通じて行なっています.それらの研究を通じて,迅速且つ正確に必要な情報を取得可能な装置の開発を進めています.雪崩の発生危険性予測技術の向上に関しては,スキー場内に複数の気象測器を設置し,そのデータを一元管理する試みを今冬から開始します.その情報を予測情報と合わせてスキーパトロール等に見てもらい,彼らの意思決定(雪崩管理)に役立つ情報発信方法に関する検討を開始します.研究の概要スキー・スノーボードなど雪を楽しむ人は, 危険の大小の差はありますが, 潜在的に雪崩の危険性にさらされています. さらに雪国では, 無数の雪崩危険箇所が生活圏に存在するなど, 雪崩の危険は雪国では未だ身近な問題です. 本研究を通じて防災科研主体の最新の科学的根拠の基づく雪崩管理方法が確立することで雪崩に関する正確な情報提供が可能となり, 雪崩災害の被害(犠牲者や経済損出)軽減に貢献することが期待されます. 他スキー場への展開を見据えて,現在白馬スキーエリアのある長野県小谷村との連携協力を進めています.また今回の研究対象であるニセコスキーリゾートは,札幌が誘致を進めている2030札幌冬季オリンピックのスキー競技会場予定地です.そのため,仮にニセコスキーリゾートでオリンピックが開催されると,今回開発するシステムが今後のスキー場における雪崩管理の世界的スタンダードになる可能性があります.
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