防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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インセンティブと直感的表現で避難(evacuation)は促進されるのか~24000人が参加した気象アプリ実証実験から見えてきたこと~気象災害軽減イノベーションセンター  中島 広子2020.2.13 令和元年度 成果発表会■心理学、デザイン、感性工学等の専門家や民間企業とコラボし、伝わる・避難する情報設計を目指した。■2018年SIPの支援で既存の気象アプリを用いた社会実験を実施。1.背景・目的近年、気象予測精度は向上しているが、現在の情報発信では避難行動につながらないケースも見られる。そこで、本PJでは気象予測情報の情報設計に焦点を当て、スマホユーザーを対象に気象予測情報の伝達と適切な判断・行動を促す情報設計を目指した。ここでは社会実験について紹介する。2.方法・結果•調査1:既存の気象・防災アプリの情報を調査した結果、雨の強さの表現(言語や単位)にバラつきがあることが分かった。•実験1:雨量の数値と言語表現を伝えるだけでは、情報受信者に実際の雨量のイメージが正しく伝わらないことが明らかになった。→調査1・実験1の結果より、現状の情報発信に課題•調査2:心理学の文献レビューを行い、人間の意思決定は直感的なイメージに影響されること、インセンティブを与えると行動が強化されることが分かった。•実験2:調査2の知見をもとに、案①②を、既存の降雨予報アプリケーション「あめふるコール」に実装した社会実験を実施し、24,330人が参加した。実施期間は、2018年8月6日~10月31日であった。雨が降る前の行動解析、アンケートおよびインタビューを実施した。案①GIFアニメーション:直感的に雨の強さイメージが伝わるよう「あめふるコール」のカエル型キャラクターを用い、線の数や左上︓直感的に雨の強さイメージ伝えるGIFアニメ(案①)と雨からの回避行動を促すインセンティブとしての電子ギフト(案②)の配信イメージ、右上︓社会実験での案①および案②の配信プロセス、下図︓(左から順に)GIFアニメ表示と雨の強さイメージ、GPS位置情報に基づくアニメーションの表示と雨宿り成功の傾向、アニメーションの通知から雨宿りまでにかかった時間の比較•避難(evacuation)に繋がる情報発信方法の開発これまでの実施を踏まえ、以下の研究テーマを検討している。実施の際は、必要な分野の専門家や協力者と連携しながら進める予定である。<検討中の研究テーマ例>・条件付けされた音に対する反応と行動の関係を調査する。・経済学の知見や画像解析の技術を活用し、災害もしくは現象発生前後の市場や行動を把握する。・ゲーミフィケーションなどで蓄積されたノウハウを活かし、達成動機やコレクション欲求などは満たすが、原価が無料であるようなインセンティブや別の正の強化子の活用を検討する。・社会実験で使用したGIFアニメーションについて、雨の強さイメージが伝わった要素を分析する。・情報の空振り経験のあとの報酬提示による情報受け手への影響を調査する。傾き、降雨時の濡れた状況や顔の表情等、対応する雨の強さが正しく伝わるように作成した。案②電子ギフト:雨からの避難行動のインセンティブとして500円相当の電子ギフトを配布した。10mm/h以上のプッシュ通知に続き、ユーザー端末が全国チェーン展開するコーヒーショップ/アイスクリームショップ近隣にある場合に電子ギフトを配布した。→案①で雨の強さイメージは伝わったが、行動を変えるほどではなく、また、案②によって雨宿り意図は高まったが、データ数が不十分で効果有無の判断は困難であった。インタビューでは雨宿りしなかった理由として、仕事の予定を優先せざるを得ない、友人と一緒の時は自分だけ電子ギフトを使いづらい、アイスの電子ギフトは男性1人で使うのは恥ずかしい等が挙げられた。案①GIFアニメ案②電子ギフトt=-12.8, df=1138.7, p<.001***t=-0.76, df=506.1, p-value=0.4421234とてもよくイメージできたなんとなくイメージできたあまりイメージできなかった全くイメージできなかったアニメーション表示ありアニメーション表示なし(雨の強さイメジの程度・本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「プログラム・マネージャー(PM)の育成・活躍推進プログラム」事業(防災科研の他,名古屋大学・アールシーソリューション・慶應義塾大学・日本大学・ヤグチ電子工業が研究に参画)および内閣府総合科学技術・イノベーション会議戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能強化」の支援を受けたものです。・H.Nakajima,K.Shimazaki,Y.Ishigaki,A.Miyajima,A.Kuriyama,K.Iwanami,andY.Mitsukura,HowUsersofaSmartphoneWeatherApplicationAreInuencedbyAnimatedAnnouncementsConveyingRainfallIntensityandElectronic GiftsPromotingRainEvacuation,JournalofDisasterResearchVol.14No.9,pp.1236-1244,2019X-squared=0.24, df=1, p=0.623

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