防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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耐水害住宅の性能実験からわかること先端的研究施設利活用センター 大型降雨実験施設戦略室  酒井 直樹2020.2.13 令和元年度 成果発表会■住宅における浸水リスクの明確化■各種対策工法の検証や標準化■浸水リスクを自分事として考え、現実的な避難に備える令和元年10月に防災科研と株式会社一条工務店は、官民共同による水害被害の軽減プロジェクトとして、ゲリラ豪雨や洪水により河川の氾濫が発生した際に懸念される住宅の「床下浸水」「床上浸水」を防止する様々な技術を組み合わせた「耐水害住宅」の実大規模の共同実験を大型降雨実験施設を利用して実施した。その概要を報告する。令和元年10月、関東から東北にかけて台風19号が通過し各地で洪水・浸水被害が発生した。このように近年我が国で多発している豪雨に対して、被害を最小に抑え、住民の命と生活を守るためには、シェルターの役割を果たす住宅に対する水害対策が急務である。そこで今回の実験では、豪雨による洪水状態を再現し、実大の木造2階建て住宅2棟(一般仕様住宅及び耐水害住宅)の性能比較を行った。特に床上浸水時のリスクを明確にするために、各種センサーや60台に及ぶカメラを用いて、住宅内部への浸水状況を計測し、安全性の違いを客観的に比較した。耐水害住宅の対策としては、浸水・逆流・水没を考慮した対策を講じて、床下・床上浸水に対するの住宅の性能を検証した。これらの技術は、実際の住宅に適用な可能なものである。実験終了時は、水位は1.3mに達し、床上70cm程度であった。その時の様子を図1に示す。中は電気がついており、室内には全く水が浸入していなかった。この実験の成功から、浸水・逆流・水没に着目し、その全てを対策すれば水の浸入が防ぐことが可能であり、また実用可能な技術で床上浸水を防ぐことができることを実証したことは画期的である。ここで試した耐水害対策は、今後実際に活躍することが期待される。図1実験中(水深1.5m)の耐水害住宅。中は電気がついており、室内には水は全く浸入していない。このような官民連携による共同研究により、各種対策工法や住宅におけるリスクの明確化、さらに各種対策工法の標準化に繋がるような基礎データの提供を収集し、今後住宅関連メーカーや保険分野の企業と検討を行いながら、「豪雨・水害」への備えや居住者の防災行動等に資する研究開発を行うことで、確実な社会実装を目指すことができる。住宅は住人の命を守るシェルターであるべきだが、地震の対策に比べ、豪雨に対する住宅の対策は従来軽視されてきた。しかし今後豪雨災害における対策の選択肢が増えることは重要であり、床上浸水に対するリスクを自分事と考え、それに対する避難や経済的な損害への備えに対して情報を提供していく予定である。

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