防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
15/144

物理モデルに基づいた南海トラフ地震シナリオの構築地震津波防災研究部門  野田 朱美2020.2.13 令和元年度 成果発表会2019.○○.■観測成果と物理モデルに基づく地震発生シナリオを提案■プレート境界への応力の蓄積を測地観測から推定■応力蓄積に応じて発生する地震のすべり分布を予測本研究は、将来発生する可能性のある地震のシナリオ(震源の場所、地震規模など)を予め想定し、災害対策に役立てることを目標にしています。従来の研究では、基本的に過去に発生した地震から経験的に地震シナリオが構築されてきました。しかし、将来の地震が過去の地震と全く同じように発生するとは限りません。本研究では、地震発生メカニズムの物理学的な知見と観測データを基づいた新たなアプローチによって、南海トラフで将来発生する可能性のある地震のシナリオを複数作成しました。1990年代から日本中に展開されたGNSS観測網(GEONET, 国土地理院)により、日本列島の地表の動きを捉えられるようになりました。その観測データから、数年単位のゆっくりとした地表の変動を抽出して解析すると、プレート境界のすべり遅れ(固着)の分布(図a)が推定されます。更に、すべり遅れからプレート境界に働く「せん断応力」の一年あたりの変化量(変化速度)を計算することができます。せん断応力が長い年月をかけて蓄積し、プレート境界の摩擦強度を超えると地震が引き起こされます。図bのせん断応力の変化速度にはいくつかのピークが見られるため、各ピークが単独で破壊、あるいは複数が連動破壊して南海トラフ地震が発生するという仮定の下、地震シナリオを作成しました。地震の前に蓄積したせん断応力が地震時に解放されるという考えのもと、地震時のすべり量分布(震源域の広がり)を見積りました。図cはせん断応力の蓄積期間を200年とした場合の地震シナリオを示しています。過去の南海地震や東南海地震に似たシナリオを含む複数の地震シナリオを構築することができました。応力蓄積期間を200年とした場合の地震シナリオ(a) プレート間のすべり遅れ速度分布(b) プレート境界に働くせん断応力の変化速度(c) 物理モデルと観測データに基づいて構築した地震シナリオ(地震時のすべり量分布)本手法では、図に示したように複数の地震シナリオが作成されます。今後は「どのシナリオが現実に発生するか」という問題を、力学的な観点から明らかにすることを目指しています。地震の発生は、地震を引き起こそうとするせん断応力と、それに抵抗する摩擦応力のバランスによってコントロールされています。そこで、本研究で求めたせん断応力の蓄積量と摩擦応力の関係について調査をすすめ、今後の防災対策のために考慮すべきシナリオを絞り込んでいきます。最終的には、絞り込んだシナリオに対して、地震時の断層破壊の動力学的シミュレーションを適用します。これにより、国内ではこれまで経験したことのない巨大地震に対しても、地震発生時に日本列島を襲う地震動や津波の大きさを計算することができるようになります。(b)せん断応力の変化速度[KPa/yr](c)地震時のすべり量[m]すべり遅れ速度[mm/yr](a)

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る