防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622大型岩石実験による断層すべりの解明地震津波防災研究部門  山下 太2020.2.13 令和元年度 成果発表会■世界的にも珍しいメートル規模の岩石を使った断層摩擦実験を実施■岩石の摩擦特性・法則は断層の大きさによって異なる可能性■自然地震の直前に観測される微小地震活動の加速過程を再現図1大型振動台を利用した岩石摩擦実験装置及び模擬断層面へのガウジ散布作業断層規模を考慮した摩擦法則の解明に加え、メートル規模の岩石試料を使うことでより自然に近い環境を再現可能であることを利用し、断層がどのような準備過程を経て巨大地震の発生に至るのかを明らかにする実験研究を推進する。これまでの実験で、模擬断層全体がすべる本震前に模擬断層面上の極微小地震の活動が加速化する現象を観測しており、さらにその統計的性質が自然地震に類似していることを確認している。微小地震活動は直接手が届かない地下深部の断層状態を示すインジケーターであり、断層の現状と今後の推移予測に有効であると期待される。本実験研究により、微小地震活動の物理的背景を明らかにするとともに、それに基づく断層状態の把握手法を確立し巨大地震発生の予測に貢献する。地震とは断層が食い違い、すべる現象であることから、そのすべり方を左右する岩石の摩擦特性・摩擦法則を把握することは極めて重要である。そのため、世界中でその調査のための実験研究が精力的に行われているが、その多くではセンチメートル規模の岩石試料が使われている。実際に被害を及ぼす地震断層は数キロメートル以上の規模であり大きなスケールギャップがあるが、小さな規模の実験で得られた摩擦法則が実大規模の現象を反映しているかは未だ明らかではない。そこで我々はメートル規模の岩石試料を用いた室内実験(図)を通して断層の大きさが摩擦特性に与える影響を調べるとともに、実大断層規模まで適用可能な摩擦法則の確立に向けた実験研究を進めている。これまで、岩石同士を直接接触させ高速ですべらせた条件では断層規模による摩擦特性に明確な違いが生じ、高いすべり速度では大きな断層の方がよりすべりやすくなる傾向となることを明らかにした。また、その違いの原因が小さな規模では発生しにくい接触面上の応力不均質であることも明らかにしている。一方、自然の断層では多くの場合、ガウジと呼ばれる岩石粉末粒子が断層内に存在している。そこでユトレヒト大学(オランダ)の研究チームと共同で、現実の断層を模した、岩石粉砕粒子を敷き詰めた状態でのメートル規模の摩擦実験を世界で初めて実施した(図1)。そして現在の地震学で標準的に採用されている速度状態依存摩擦則で表現される摩擦特性を低いすべり速度領域で調べたところ、断層規模による摩擦特性の違いがほぼ見られなくなることを明らかにした。現在、ガウジを含む模擬断層を高速ですべらせる実験の準備を進めており、断層規模およびすべり速度の影響を考慮した岩石摩擦モデルを構築するとともに、そのモデルを基にキロメートル規模まで適用可能な摩擦法則の解明に向け研究を進めていく予定である。

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