防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622大地震直後からの余震予測の試み地震津波火山ネットワークセンター/地震津波防災研究部門  澤崎 郁2020.2.13 令和元年度 成果発表会■地震計記録そのものを使って、余震による地震動最大振幅を予測。■熊本地震の本震後3時間の記録から、精度の高い予測を実現。■大規模な余震が引き起こす二次余震の評価が課題。通常、大地震後の余震活動の予測は、「いつ」、「どこで」、「どれくらいの大きさの」地震が生じたを記載した「地震カタログ」に統計処理を施し、現在進行中の余震活動の傾向を分析することにより行います。しかし、大きな地震の直後にはたいてい、非常に多くの余震による地震波が地震計記録上で重なりあい、どの波がどの地震によるものかを判別することが難しくなります。そのため、地震カタログの質が悪くなり、これをそのまま余震予測のために使うことも難しくなります。そこで本研究では、地震カタログを使わずに、地震計で捉えられた余震の記録にそのまま統計処理を施して、余震による揺れの大きさを予測する方法を提案します。この方法では、地震動の連続記録をある時間幅(例えば1分間)ごとに区切り、その中での地震動振幅の最大値(区間最大振幅)を解析に利用します。これまでの研究により、区間最大振幅が非定常Frechet分布と呼ばれる確率分布に従い発生することが分かりました。この非定常Frechet分布を区間最大振幅にあてはめることで、「どの期間に」、「どれくらい以上の地震動が」、「どれくらいの確率で」発生するかを示すことができます。図aは、Hi-netのN.TYNH観測点で、2016年熊本地震の本震発生から3時間以内に観測された区間最大振幅(白丸)と、区間最大振幅にあてはめた非定常Frechet分布(カラースケール)です。区間最大振幅が、非定常Frechet分布に従って推移していることが分かります。図bは、図aに示した3時間分の区間最大振幅を使って、その後24時間以内にどれくらいの大きさの最大振幅がどれくらいの確率で起こるかを予測したものです。観測された最大振幅(白丸)が、予測の範囲内で発生していることが分かります。図(a)Hi-netN.TYNH観測点で記録された、熊本地震の本震後3時間の区間最大振幅(白丸)と、区間最大振幅にフィッティングした非定常Frechet分布(カラースケール)。(b)同じ観測点において、3時間後までの区間最大振幅の傾向から推定した、3-27時間後までに観測される最大振幅の予測(実線)と、実際に観測された最大振幅(白丸)との比較。実線に併記されている確率は、その実線の値を超える最大振幅が該当時点までに発生する確率を表す。今回示した予測法は、比較的単純な本震―余震型の地震系列には有効ですが、大きな余震や誘発地震そのものが別の余震を誘発するような複雑な状況下では適用できないことが分かっています。2011年東北沖地震はそれに該当します。将来発生する南海トラフ巨大地震においても、東北沖地震の時と同様に、海域のみならず陸域でも多くの地震が誘発されることが懸念されます。今後は、大規模な余震や誘発地震が引き起こす複数の本震-余震系列にも適用できるように、手法を改良する予定です。どのくらいの規模の余震活動がどのくらいの期間継続するかは、被災者にとって最大の関心事の一つです。余震活動予測を、発災後の応急対応、さらには復旧・復興の時期においても欠かせない情報とするべく、高度化を進めていきたいと考えています。

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