〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622南海トラフ地震による間接被害の試算マルチハザードリスク評価研究部門 河合 伸一2020.2.13 令和元年度 成果発表会防災科学技術研究所では、文部科学省「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として、南海トラフ沿いで発生する巨大地震の発生時期や発生の多様性等を考慮した広域リスク評価研究を行っている。この広域リスク評価結果を踏まえ、次の6つのシナリオ地震を設定した。◯シナリオ1︓南海トラフ東側でMw8.3の地震が発生し、その2か月後に西側でMw8.7の地震が発生。◯シナリオ2︓南海トラフ東側の紀伊半島沖でMw7.3の地震が発生し、その半年後に南海トラフ全域でMw9.1の地震が発生。◯シナリオ3︓東海地震の震源域で前兆現象が観測され、政府から「南海トラフ地震に関連する情報」が発表されたが、何も発生せずに、2年後に南海トラフ全域でMw9.1の地震が発生。◯シナリオ4︓都心南部直下地震が発生し、その2か月後に南海トラフ全域でMw9.1の地震が発生。◯シナリオ5︓南海トラフ西側でMw8.7の地震が発生し、その2年後に東側でMw8.3の地震が発生。◯シナリオ6︓南海トラフ東側でMw8.3の地震が発生し、その1か月後に猿投-高浜断層帯で地震が発生。さらに、その1年11か月後に西側でMw8.7の地震が発生。*************************多地域間動力学的応用一般均衡モデルを用いて計算した各シナリオ地震における間接被害額と12か月平均の間接被害額を図■南海トラフで巨大地震が発生する場合のシナリオを複数設定。■多地域間動力学的応用一般均衡モデルを用い間接被害を試算。に示す。その結果、間接被害が最も大きくなったのは、シナリオ6であった。この原因はシナリオが3つの地震で構成されており間接被害の対象期間も36か月と長期にわたること、南海トラフの地震だけでなく「中部」でM7クラスの直下型地震による被害が発生すること等が考えられる。一方、12か月平均の間接被害額では、シナリオ4が最大となった。これは、南海トラフ巨大地震だけでなく、その発生2か月前に都心南部直下地震が発生し、首都圏に大きな被害が発生するシナリオのためである。また、安政、昭和の南海トラフの地震のように、震源域の東側、西側が時間差を伴って破壊するケースでは、東側で先に地震が発生するシナリオ1では約57兆円、西側で先に地震が発生するシナリオ5で約75兆円となった。ただし、シナリオ1では2つの地震が発生する間隔が2か月に対し、シナリオ5では2年と長期にわたっており、その分、間接被害も多く計上される結果となった。各シナリオの間接被害の試算結果(試算期間は最初の地震発生から最後の地震発生の12ヶ月後まで)南海トラフの地震発生により社会的に困難な状況に直面するケースとなるシナリオを設定し、各シナリオによる地震・津波のハザード情報とフラジリティ関数に基づき計算した地震・津波による初期ショックを利用し、多地域間動学的応用一般均衡モデルにより間接被害を試算した。モデルの構築に用いた2005年地域間産業連関表は日本全国を9地域に分割したもので、地震による資本ストックの毀損等表現するには空間解像度が不足しており、精度向上のため、地震・津波ハザード情報の空間解像度に合わせた経済データの作成が必要である。さらに、地震動と資本ストックの毀損の関係を示すフラジリティ関数を今後検討していく必要がある。
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