防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622災害レジリエンス・ファイナンス研究災害過程研究部門  永松 伸吾2020.2.13 令和元年度 成果発表会■災害レジリエンスの持続的向上のためには資金的裏付けが必要。■リスク・ファイナンスに代わる新たなコンセプトの提案■防災科学技術と金融技術の融合によるイノベーションを目指す災害レジリエンス・ファイナンスは新しいコンセプトであり、従来のリスク・ファイナンスの考え方とは以下の点において異なる考え方である。第一に、リスクファイナンスは損失の金銭的補償が主要な目的であり、これに対して、レジリエンス・ファイナンスは、レジリエンスの向上を目的としている。第二に、リスクファイナンスは、リスクコントロールによるリスク軽減策との対概念であるが、レジリエンス・ファイナンスはリスクの軽減よりもリスクの受容に力点を置いている。第三にリスクファイナンスは単一の意思決定主体を対象とした思考フレームであるのに対して、レジリエンスファイナンスは社会全体を対象とした思考フレームであり、ガバナンス思考に基づいている。第四にリスクファイナンスは有償資金を前提とした思考フレームであるが、レジリエンスファイナンスは無償資金も念頭に置いた思考フレームである。これを図示したものが図1である。レジリエンス・ファイナンスは次の3つの対策を重視する。第一に命を守るための速やかな避難と、速やかな活動の回復(Evacuation & Recovery)である。第二に被害軽減と適応策(Mitigation and Adaptation)である。そして第三に教育と計画(Education and Planning)である。それぞれのフェーズを促進することはレジリエンスの向上において不可欠であるが、それぞれの対策に必要な資金が適切に供給され、持続可能なレジリエンス向上のサイクルを作ることが、レジリエンスファイナンスの目的である。リスクファイナンスと同様に、レジリエンスファイナンスにおいて、保険は引き続き重要なツールである。しかしながら、被害回復が目的ではなく、レジリエンスの向上を目的とする保険は、次のような性質が求められる。第一に、ストックの損失ではなく、フローの損失を補償する保険でなければならない。災害による機会費用をどのように評価するかの方法論が確立されなければならない。第二に、速やかに補償がなされなければならない。パラメトリック保険のような仕組みが求められる。そして第三に、レジリエンスの向上のためのインセンティブを付与するものでなければならない。このためレジリエンス評価の指標が必要である。図1レジリエンス・ファイナンス・フレームワークレジリエンス・ファイナンスの実現に求められるのは、防災科研の持つハザード情報・リスク情報と金融技術を組み合わせ、レジリエンス向上のイノベーションを起こすことを目指す。例えばしばしば不平等な配分が指摘される義援金についてドナー間で自発的な調整を可能にするようなプラットフォームの開発などはその一つである。

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