防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622グリーンインフラと防災-災害現場で見えてきたこと-水・土砂防災研究部門  横山 仁2020.2.13 令和元年度 成果発表会■災害現場で平地林等グリーンインフラ(GI)による防災事例を確認■高齢化等により管理の行き届かない林や伐採される事例も目立つ■防災を含めた多面的な機能の再評価と管理法の検討が必要1.はじめに2019年は,台風15号や19号をはじめ,さまざまな気象災害が頻発し,各地で甚大な被害となった.今後,南海トラフ地震や首都直下地震だけでなく,地球温暖化やヒートアイランド現象等にともなう激しい気象現象の発生が懸念され,防災情報の充実等とともに,安全・安心な地域づくりの重要性が増している.そうしたなか,GIによる防災機能に期待が寄せられ,近年注目を集めている.ここでは,気象災害現場で確認した緑地による被害軽減事例のなかで,一般に災害に脆弱とされる農業における事例をいくつか紹介し,課題を考えてみたい.2.降雹での事例2017年9月25日に,茨城県南西部を中心に比較的強い風を伴った降雹があり,農業被害が発生した.つくば市内の農地において,中央付近にある平地林を境に,風上側では葉が破れたり,穴が開くなど甚大な被害があったのに対し,風下側では目立った被害は確認されないという事例があった.3.台風での事例2018年9 月30 日に,非常に強い勢力のまま和歌山県に上陸した台風1824号により,各地で暴風が吹き荒れ,つくば市でも観測史上2位となる32.7m/s(南南西)の最大瞬間風速を記録した.茨城県全体で11億円を上回る農業被害となったが,風上側に平地林がある農地の被害が周辺よりも小さい事例を確認した(図).風上側に林のない畑では,97%の個体に被害が発生していたが,林の背後では12%に止まっていた.2019年に両地点の風を計測した結果,台風1824号と同じ南南西の強風となった台風1919号時のBの風速は,Aの54%と小さく,このことが被害の軽減につながったものと推察された.ただし,生産者へのヒアリングの結果、普段の栽培面では,林による日陰の影響についての指摘があった.図.グリーンインフラ(平地林)による強風害の軽減事例(左上︓平地林周辺の空中写真<2008年5月6日,国土地理院撮影>.矢印は強風時の風向(SSW).右上︓Aエリアのハクサイの被害.左下︓ほとんど被害の無かったBエリアのハクサイ.右下︓A,Bエリアの風速,黄色は南南西の時間帯.茨城県つくば市)上記以外にも,山林火災時に樹林が焼け止まりとなった事例等GIによるとみられる防災事例を災害現場で目撃した.しかし,高齢化等により十分な管理が行えず放置された林や,農地の大規模化や日陰の問題等から逆に伐採されるケースもみられた.今後,さらなる気象災害の激甚化が懸念されるなか,こうした平地林等既存の緑地による効果は重要であり,その機能を防災を含め多面的に見直すとともに,現実に即した管理法に関する検討についても,今後,進めていく必要があると思われる.このほかにも,千葉県を中心に甚大な強風被害が発生した台風1915号において,近傍の平地林によりハウスの倒壊が免れたとみられる事例や,関東甲信及び東北地方で記録的な大雨をもたらした台風1919号により吉田川が氾濫した現場で,流れてきた瓦礫が平地林により堰き止められ,背後の家屋への流入を防いだとみられる事例を数カ所で確認した.100m02468101214161820風速(m/s)AB(2019年10月12日)

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