〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622S-netで捉えた日本海溝のスロー地震地震津波火山ネットワークセンター/地震津波防災研究部門 田中 佐千子2020.2.13 令和元年度 成果発表会■S-netによって、日本海溝近傍のスロー地震を観測■スロー地震は巨大地震の震源域浅部側で発生■海溝軸に沿ってプレート境界浅部のすべり挙動が変化スロー地震は、通常の地震に比べ、断層がゆっくりとすべる現象です。強い揺れを伴わないため、被害を生じることはありません。高感度地震観測網(Hi-net)が日本全国に密に展開されたことにより、南海トラフ巨大地震の震源域周辺で初めて発見され、その後、世界各地のプレート沈み込み帯で次々と観測されました。沈み込むプレート境界面上で巨大地震発生域に隣接して起こるため、巨大地震の発生に向けた歪みエネルギーの蓄積に影響を与える現象として、巨大地震との関連性が指摘されています。スロー地震は十勝沖や東北沖の日本海溝でも起きていることが確認されていましたが、その発生域は陸域観測網から遠く離れているため、十分な検出は難しく、決定精度には大きなばらつきがありました。今回、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が新たに整備されたことにより、日本海溝近傍のスロー地震を高精度で決定することが可能になりました。スロー地震は巨大地震の震源域の浅部側に沿って帯状に分布します。また、空白域を挟み、十勝沖および三陸沖に2つのスロー地震活動域が存在します。三陸沖で発生した2つの巨大地震はこの空白域で破壊が開始していたことも明らかになりました。十勝沖と三陸沖では、発生間隔や継続時間などの活動様式も異なります。プレート境界浅部のすべり挙動が海溝軸に沿って大きく変化していることを示していると考えられます。S-netによって検出されたスロー地震(赤丸)。青バツ印(Asanoetal.,2008)および緑菱形(Matsuzawaetal.,2015)は陸域観測網によって検出されたスロー地震。実線コンターは過去約50年間に発生した3つの巨大地震のすべり域(永井・他,2001︔YamanakaandKikuchi,2003,2004)、星印はそれらの破壊開始域。十字は使用した観測点。本研究により、南海トラフと比べ、観測事例の乏しい日本海溝のスロー地震の発生場所やその推移が明らかになります。他地域との比較研究により、スロー地震活動の普遍性や地域性が明らかになり、巨大地震とスロー地震との関係性の理解も進むものと考えられます。プレート境界は、普段は固着して一度に大きくすべる巨大地震の震源域といつも定常的にすべって歪みエネルギーが蓄積されない安定すべり域に分かれると考えられてきました。両者の間で発見されたスロー地震の発生様式を明らかにすることは、プレート運動によって生じた歪みエネルギーの蓄積・解放過程を理解する上で非常に重要です。数値シミュレーションの制約条件として地震発生シミュレーションの高度化にもつながり、巨大地震の発生評価に貢献するものと期待されます。
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