防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
68/144

〒305-0006 茨城県つくば市天王台3-1 Tel 029-851-1611 Fax 029-851-1622最新水蒸気データを災害時と平時に活用させる技術開発~線状降水帯の予測を可能に。熱中症の予防も可能に~水・土砂防災研究部門  清水 慎吾2020.2.13 令和元年度 成果発表会■降雨予測改善に向けた水蒸気観測技術とデータ同化技術の開発。■地上水蒸気分布プロダクト作成と民間による付加価値化の実証。■線状降水帯を予測し、避難支援。平時は熱中症対策に活用。第2期SIP「線状降水帯の早期発見および発達予測情報の高度化と利活用に関する研究」にてマイクロ波放射計等の様々な観測測器を用いた水蒸気マルチセンシング技術開発と、得られた観測データを予測へ活用するデータ同化技術の開発を行っています。豪雨が発生する前の水蒸気分布を正しく推定することで、数時間先の雨量の予測精度が向上するだけでなく、得られた水蒸気分布を市民生活の質の向上に役立つプロダクト(熱中症対策)に活用する取り組みを進めています。従来の水蒸気観測は1日2回全国16か所で気象庁のラジオゾンデにより実施されています。しかし、この水蒸気観測の時空間分解は線状降水帯等の豪雨の予測にとっては粗すぎます。線状降水帯の予測精度を向上させるために、最新の水蒸気観測測器を線状降水帯が多発する九州に来年から整備を開始します。水蒸気の鉛直積算量を高時間分解能で取得するマイクロ波放射計等の様々な測器で観測を行います。また、こうした観測情報を予測に取り込むデータ同化技術の開発にも取り組んでいます。2時間先までの雨量予測を10分毎の高頻度で行い、九州の9つの自治体へ避難勧告等の意思決定を支援する情報提供を行う実証実験を進めています。災害時だけでなく平時での活用に向けて、データ同化技術で得られるリアルタイムの水蒸気分布を用いた熱中症危険度情報の配信実験を民間気象会社と協力して来年から実施し、東京オリンピック等の大規模イベントでの精度検証を行う予定です。水蒸気マルチセンシングのそれぞれの観測精度と運用コストを調査し、社会実装可能なものを絞り込むこともSIP研究課題のミッションの一つです。また、データ同化手法の開発は、最新観測による予測精度向上への貢献を定量化できるだけでなく、どの程度の密度で水蒸気観測機器を整備すればよいか等の想定実験も行うことができ、最新観測技術の社会実装を進めるうえでのビジネスモデルの構築に大きく貢献します。さらに確実な収益を見込むための平時利用を可能とする技術開発にも力を入れ、開発した技術の社会実装の実現可能性を高めていきます。SIP研究では、民間企業による地デジ水蒸気観測のデータ配信事業化を目指しており、全国展開も夢ではありません。今後は、被災地における水蒸気推定を進めることで、災害発生後の復旧・復興ステージでの活用も視野に入れた開発を進めていきたいです。

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る