気象災害の予測を目指した研究水・土砂防災研究部門 飯塚 聡2020.2.13 令和元年度 成果発表会■過去の気象災害情報を収集・利用する■現在の気象予測の不確実性を理解する■将来の気象災害の予測情報につなげる最新の気象モデルによる台風の進路予測の精度は年々向上している。しかし、数日先の雨量や災害自体を直接予測することは困難である。過去の事例を活用して気象予測の結果から想定される状況も情報として提供できれば、気象災害への備えに役立つと考えられる。そこで、これまで構築を進めてきた様々な台風の災害情報を集約する台風災害データベースを利用して、最新の気象モデルで予想された台風経路と類似した過去の台風とその際の雨量情報を提供する試みを実施している。一方、近年これまで経験したことがないような甚大な災害をもたらす集中豪雨・豪雪等が多発している。気象予測の精度は着実に進展しているが、予測される雨量情報等には依然として不確実性(誤差)が存在する。このため、より一層の予測精度向上は災害の軽減に資する重要課題である。最近の研究から、梅雨末期に豪雨が頻発する背景として季節的な海面水温の上昇が影響している可能性が示唆されている。しかし、現在気象予報モデルに利用されている海面水温データには不確実性が存在する。周辺を海で囲まれた日本において、集中豪雨の予測のリードタイムを延ばす上では、海上での水蒸気の把握が重要となるが、海面水温の不確実性が水蒸気フラックスや豪雨にどのような影響を及ぼすのかをまず把握する必要がある。そこで、日本周辺の海面水温が数値モデルで予想される豪雨などへの影響について研究を進めている。雨量などの気象情報に加えて起こりえる災害状況も合わせて情報として提供できれば、避難や対策などの判断に有効と考えられる。これまで構築を進めてきた台風災害データベースには、過去の台風の災害情報が集約されている。そこで、気象モデルで予想された台風経路と類似した過去の台風における雨量情報に加えて床上・床下浸水件数や一部損壊件数などの被害情報も表示する準備を進めている。また、比較的短時間の集中豪雨や低気圧などの台風以外の気象現象に起因する様々な災害情報についてもデータ整備を行い、様々なデータが蓄積していけば、他の気象災害に対して有効な情報提供が可能になることが期待される。一方、日本周辺の海面水温は、長期的には他の海域に比べ上昇率が大きく、また黒潮・親潮や対馬暖流の影響で複雑な空間構造を持つ。観測データも活用しながら、様々な時空間スケールの変動を有する日本周辺の海面水温が、豪雨や豪雪などの極端気象現象や近年増加傾向にある日本の短時間豪雨頻度等へ与える影響についての理解が進めば、将来の豪雨などの発生頻度や強さ、発生地域などの変化に関する有益な知見を与えるとともに、それらの結果を踏まえた想定される災害情報の向上にもつながることが期待される。数値モデルによる2013年8月秋田・岩手豪雨の再現実験︓海面水温に冷たい(左図)および暖かい(中図)誤差がある場合で雨量のみならず降雨域の位置に系統的な違いが生じる。また、海水温の誤差に応じて豪雨の雨量が変化する(右図)。2019年10月12日6時での台風19号の予想経路に類似した過去の台風(左図)。2017年台風21号と2001年台風15号による積算雨量の平均値の分布(中図)。2019年台風19号による積算雨量分布図(右図)。
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