防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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スロー地震と大地震の過去・現在・未来地震津波火山ネットワークセンター  松澤 孝紀2020.2.13 令和元年度 成果発表会■記録紙に残された地震波形から、過去のスロー地震の活動を知る■陸海の地震観測網から、スロー地震活動を現状をモニタリング■数値シミュレーションから、スロー地震と大地震との関係を予測21世紀に入り、「スロー地震」と呼ばれる、通常の地震に比べてゆっくりとしたすべりが地下深くで起きていることが明らかになってきました。このスロー地震は、とくに南海トラフや日本海溝付近で繰り返し発生しており、陸海の地震観測網により捉えられています。これまで実施した数値シミュレーション研究からは、大地震の発生が近づくにつれ、スロー地震の発生パターンの変化が予測されています。ただし、これは現実をかなり単純化したモデルの結果であるため、長期間の実際のデータを通じた検証や、より現実的なモデルによる検討が必要です。防災科研では、地震観測網の記録から、スロー地震活動の時間的な変化を捉え、その詳細を解析する研究に精力的に進めています。こうしたモニタリング研究のうち、個人的には、とくにスロー地震の一種の超低周波地震の研究に取り組んでいます。今年度の成果としては、新たに整備されたS-netを利用して解析した他のスロー地震の結果と統合することで、東北地方太平洋沖においてスロー地震発生域が大地震のすべりを抑制した可能性を示しました(西川・松澤他, Science, 2019)。加えて、過去のスロー地震活動を解明するため、記録紙上に残された1980年代からの東海地方の地震計記録の解析も開始しました。この記録にはスロー地震の一種、低周波微動と思われる波形が確認でき、今後長期にわたる活動履歴の解明が期待されます。さらに、これまで実施してきた数値シミュレーションに、こうした長期の活動状況と詳細の把握を随時反映することで、より現実に近いモデルを構築し、スロー地震と大地震発生の再現と予測の研究を進めています。上・下段は研究概要をまとめた図。中段は防災科研によるスロー地震の紀伊・東海地域の時空間分布図。スロー地震の過去を知る取り組みは、着手したばかりのテーマです。現在防災科研に残されている地震計データの記録紙は、東海地域において過去のスロー地震活動を知る上で、唯一の地震計記録です。まず解析を数値的に行うために、その画像化を進めます。記録紙は膨大であるためそのごく一部ではありますが、貴重な記録を将来に残すという意義もあります。得られた画像はデジタル波形化や画像解析を通じて、スロー活動の長期履歴の解明が期待されます。また東北地方太平洋沖の解析からは、スロー地震域が大地震のすべりを抑制する可能性が示されました。こうした観測結果をモデルに随時反映し、南海トラフの大地震の発生に至る過程とスロー地震活動の関係解明や大地震時のすべり予測に向けた数値シミュレーション研究も継続していきます。

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