雲レーダーによる突発的豪雨の前兆解明水・土砂防災研究部門 大東 忠保2020.2.13 令和元年度 成果発表会•突発的な激しい雨の1分でも早い予測を目指して。•世界有数の3次元雲観測網を構築。•発達する積乱雲の前兆解明に取り組んでいます。夏の晴れた日の午後、積乱雲が急激に発達し短時間だが激しい雨がもたらされることがあります。過去には、上流に降った激しい雨によって、たった5分の間に河川水位の急激な上昇が起こり、増水した水に流されることによって人名が失われる事故が起こっています。こういった事故を防ぐためには、少しでも発達しそうな雲を発見し、その中から今後激しい雨をもたらす積乱雲に発達する雲かどうかを1分でも早く捉える必要があります。しかしながら、これまで雨の観測に使用されてきた主要な観測機器である降水レーダーでは、雲の中で成長した比較的大きくなった粒しか観測できず、初期の雲の内部を観測する手段がありませんでした。そこで、防災科研では雨粒より小さな粒の状態から観測することができる「雲レーダー」を5台導入し、3次元雲観測網を構築しました。鉛直方向以外も広範囲に観測するタイプの雲レーダーは世界的にも数が少なく、防災科研がもつこの雲レーダー観測網は世界有数のものとなっています。同じように見える雲でも発達する雲と発達しない雲が存在しますが、その違いはどの時点で観測できるのかについてこの雲レーダー観測網を用いて研究を進めています。変動の激しい積乱雲の発達初期の実態を観測するために、まずは複数の雲レーダーの観測方向を一カ所に集中させ雲の3次元構造を高時間分解能で取得する特別観測を実施しました。この観測から、積乱雲は小さな上昇流の集合で構成されていることがわかりました。それらが密集し、また全体として一定の大きさをもつことで、雲の外の乾いた空気と混ざりにくくなって初期のエネルギーを失わず発達した雲が形成されると考えられます。(a)NIED雲レーダー。(b)5台の雲レーダーによる世界有数の3次元雲観測網。(c)2018年8月3日に観測された発達しなかった雲(右)と発達した雲(右)の最大レーダー反射強度の地上投影図。特別な観測による実態の把握によって、発達する積乱雲の前兆の候補をあげられるようになってきました。しかしながら、まだまだ研究事例は少ないためそれらの前兆プロセスが多くの事例に当てはまるのかどうかはよくわかっていません。今後は、積乱雲の発達プロセスを示す候補を指標化し、多くの事例に適用して有効性を確認する必要があります。また、実態解明のための特別観測では地域をかなり限定することによって高い時間分解能の観測が可能でしたが、例えば首都圏の広い地域をターゲットにするには非現実的です。今後は、1台のレーダーのみの場合、複数のレーダーの使用をできる場合両方について、オペレーショナルに最適な観測方法を数値モデルへの利用も考慮に入れながら研究を進めていきます。
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