防災科学技術研究所 令和元年度成果発表会 概要集
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平均海面仮定に基づく強風下吹送流の乱流モデル水・土砂防災研究部門  村上 智一2020.2.13 令和元年度 成果発表会■実験に基づき平均海面仮定での強風下乱流モデルを開発■開発した乱流モデルの妥当性を実証■乱流モデルによって高潮予測の計算精度向上が期待できる強風下では発達した風波によって水面が白波に覆われ,吹送流の全輸送量の2~3割を占めるベキ則層(バースト層)が平均水面直下に生成されることが明らかとなって来た.そのため,強風下の海水流動の取扱いにおいては,実測データに基づいてバースト層生成の原因となる砕波応力を正しくモデル化する必要がある.しかし,発達した風波による水面変動のために,波谷面より上の速度場をオイラー的に連続計測することができず,平均水面と波谷面の間が欠測領域となり,モデル化の大きな障害となっている.それ故,平均海面仮定の下で強風下吹送流を扱う場合,波峰から波谷までに分布する乱流成分を水平方向のみならず鉛直方向にも平均化し,バースト層モデルを構築する必要がある.そこで本研究では,流速データの空白域である平均水面から波谷面を含むバースト層の平均流速とレイノルズ応力の鉛直分布を明らかにするため,吹送流の全流量が計測可能となる二重床風洞水槽を用いて吹送流の全流量を求め,水平流速の鉛直分布の積分値がそれに一致するように,平均水面までの平均流速の鉛直分布を確定し,その定式化を行った.ついで,このような鉛直分布を持つ強風下吹送流を数値計算で再現できるよう,砕波に起因するレイノルズ応力を求めた.これの右辺第4項がバースト層生成の原因となる砕波応力項Dbであり,実験結果に基づいてその定式化を行った.具体的には,実験で得た平均流速の鉛直分布式を上述の式に代入し,二重床風洞水槽の実験条件に合わせて吹送流計算をSOLA法によって行い,波谷面下のレイノルズ応力の実測結果を踏まえたバースト層描像に基づいて砕波応力項を逆問題として求めた.こうして求めたDbを上述の式に適用して計算した二重床風洞水槽における強風下吹送流の再現結果が下図である.これより,Db無しの従来の計算では,強風下吹送流の特徴である平均水面直下の急峻な鉛直分布を持つバースト層を再現できないだけでなく,下層での分布に対しても再現が不十分なことがわかる.これに対して,Dbを加えた計算では,実測分布を再現しており,砕波応力項を含めたモデル化が適切であることがわかる.風速10.4m/sにおける水平流速の計算値と実験値の鉛直分布の比較21llllllttttttuuuvuwuuuvuwDupuDtxxyzxyzνρ⎛⎞⎛⎞∂∂∂∂∂∂∂=−+∇−++−++⎜⎟⎜⎟∂∂∂∂∂∂∂⎝⎠⎝⎠高潮のシミュレーションでは,計算コストの問題から平均海面仮定に基づいた計算が行われる.本研究では,この平均海面仮定に基づいた強風下吹送流のモデル化を行い,従来の数値計算では再現できなかったバースト層内の急峻な流速の鉛直分布を含めて実測分布を再現できることを明らかにした.このモデル化は,強風下吹送流の数値計算において,これまで計測の困難さや取扱いの難しさから無視されてきたバースト層を計算可能としたものであり,台風来襲時の海水流動予測や高潮の推算精度の向上につながると期待できる.00.100.10.20.3風速10.4m/s実験値計算値 Db有り Db無しDepth[m]Velocity[m/s]

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