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国立研究開発法人防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター Hyogo Earthquake Engineering Research Center Hyogo Earthquake Engineering Reserch Center English 兵庫耐震工学研究センターサイトマップ
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Published by E-Defense, NIED Oct 26,2023 Vol.19 No.3
体育館架構の地震応答制御実験報告
 1. はじめに
内部に大きな空間を有する体育館等は、内部で多くの人々が滞在、活動するとともに災害時には避難所や資材の集積所として利用されるため、通常の建物に比べて高い耐震性能が期待されます。一方、過去の大地震では屋根と下部構造の接合部の損傷や天井などの落下によって内部の安全性や避難所としての機能が損なわれる事例が繰り返し報告されています。このような建物は、地震時に屋根が鉛直方向に大きく振動するなど、通常の建物とは異なる揺れ方をすることが知られていますが、大きな地震が作用した時にどのように損傷、被害、崩壊に至るかは未解明な点が多いのが現状です。また、被害を低減するため、地震のエネルギーを吸収する部材、装置も提案されていますが、実大に近いスケールの動的実験でその効果を確認した研究は世界的にもほとんどありません。そこで、体育館等の内部に大きな空間を持つ建物が地震により損傷するメカニズムを調査、分析するとともに、エネルギー吸収部材の効果を確認するため、防災科学技術研究所の実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を用いて、体育館を対象とした震動台実験を、2023年の7月27、31日と8月3日に行いました。

 2. 実験概要
2.1 試験体
試験体の全体図を図1に示します。寸法は、間口6m、奥行き8m、高さ約3.2mです。小さな体育館でも、E-ディフェンスの震動台よりも大きいため、今回の実験ではおおよそ1/4の縮小模型を用います。縮小模型のふるまいが元の体育館と相似になるように、試験体の重量や部材、入力する地震波を調整します。

 
 (a):概略図

 
 (b):写真
 図1   試験体
2.2 地震による揺れを抑える技術
この実験では、地震のエネルギーを吸収して揺れを抑える技術として、摩擦ダンパーと同調マスダンパー(TMD)の効果の確認を行います。
図1に示すブレースは、端部に摩擦ダンパーを有しています(図2)。摩擦材を押さえつける力をボルトの締め付けで調整して、所定の力が加わると滑りが生じてエネルギーを吸収します。TMDは試験体の揺れの周期と同じ周期で揺れるおもりとばねにエネルギーを吸収するダンパーを組み合わせた装置です(図3)。試験体が揺れるとTMDのばねとおもりの揺れが励起され、付加したダンパーによりエネルギーを吸収します。実験では、屋根の2カ所にTMDを設置して(図1)、効果を確認します。
  図2   摩擦ダンパー付きブレース(左:全体図、右:詳細図)
 
図3   TMD装置
2.3 加振計画
加振日1日目(2023年7月28日):
試験体の基本的な揺れ方を調査します。屋根と下部構造の接続条件をローラー支持とした場合と、固定条件とした場合で、地震によって生じる揺れを観測し、屋根の振動と下部構造の振動がどのように影響を与え合うのかを調査します。
加振日2日目(2023年7月31日):
摩擦ダンパーとTMDの効果を確認する実験を行います。摩擦ダンパーとTMDを機能させた場合の地震による揺れを計測し、これらの装置が機能しない場合の結果(1日目の結果)と比較することで、揺れを抑える効果を確認します。

加振日3日目(2023年8月3日):
体育館架構試験体が地震により損傷し、屋根の沈下に至るまでの過程を調査します。試験体に入力する地震動を少しずつ大きくして、試験体に少しずつ損傷を与え、地震動が大きくなるにしたがって、試験体のどの個所がどのような順番で損傷するかを計測します。屋根の損傷が先行、卓越することが予想され、屋根に一定レベルの残留たわみが生じるまで加振を行います。なお、摩擦ダンパーとTMDは働かない条件とします。

2.4 計測計画
体育館の屋根が地震によってどのように揺れるかを調べる為、屋根と柱頭の加速度と変位を計測します。そして、地震によって地震により屋根や下部構造にどのような力が作用し、どの程度の変形が生じ、蓄積するのかを調べるために、屋根と下部構造のひずみ(元の長さに対する伸び縮みの割合)も計測します。

3. 実験結果
摩擦ダンパーとTMDが固定された条件での、屋根面の鉛直加速度分布を図4に示します。このときの震動台の最大加速度は4.48m/s2ですが、屋根面の最大鉛直加速度は17.16m/s2であり、約3.8倍に加速度が増幅されています。今後、屋根の形状や重量、硬さと、鉛直方向の加速度分布との関係を検討していきます。
図4 
 図4 屋根中央アーチの鉛直方向加速度分布
(横軸:計測位置、縦軸:最大・最小加速度)
摩擦ダンパーとTMDを働かせた場合の、屋根面の鉛直加速度分布を図5、6に示します。摩擦ダンパー、TMDともに、加速度が約26%低減されていることが分かります。今後、それぞれの対策技術の加速度等の低減効果の定量化を検討します。
図5 図6
 図5  摩擦ダンパーの有無による屋根の鉛直方向加速度分布の違い
  (実線:摩擦ダンパーあり、破線:摩擦ダンパー無し)
 図6  TMDの有無による屋根の鉛直方向加速度分布の違い
 (実線:TMDあり、破線:TMD 無し)


3日目の加振では、図7に示すように屋根が崩壊に至りました。今回の実験では、地震によって屋根に損傷が蓄積し、崩壊に至る過程を観測、計測することができました。今後、体育館のように内部に大きな空間を持つ建物が地震により損傷、倒壊するメカニズムの解明に向けて、研究を進めていきます。

 (a):試験体全体   (b):破断した屋根アーチ
図7  崩壊した体育館試験体 
謝辞
この実験は、防災科研、東京工業大学、明治大学、工学院大学の共同研究により実施しました。実験の実施にあたり、地震減災実験研究部門と兵庫耐震工学研究センターの皆様、ならびにつくば本所の関連部署の方々に、多大なご協力を頂きました。厚くお礼を申し上げます。

 地震減災実験研究部門 特別研究員 藤原 淳

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インド工科大学ハイデラバード校との共同研究に係る訪印
  地震減災実験研究部門では、数値震動台プロジェクトの一環として、鉄筋コンクリート造構造物に対する数値解析の高度化を目的に、令和3年度からインド工科大学ハイデラバード校(以下、IITH)との共同研究を実施しています。今回は、研究開発に関する意見交換・プログラム実装の協働作業・ワークショップの実施などを目的として、2023年7月2日から8日に地震減災実験研究部門の山下研究員と私の2名でIITHを訪問しました。
 初日は夜にハイデラバード空港に到着し、そのまま宿泊施設に移動しました。滞在2日目から共同研究相手であるIITHのAmirtham Rajagopal教授・IITBHUのMahendra Kumar助教授と合流し、ランチをご一緒した後でRajagopal教授の研究室に移動しました。研究室では博士後期課程の大学院生であるKiralu Divyaさんから、彼女のご研究内容についてプレゼンテーションしていただきました。
IITH学長との写真
写真1 IITH学長との面会時の集合写真
(左から、Kumar助教授、Rajagopal教授、
山下研究員、Murty学長、大村、Panda学部長)
  滞在3日目はRajagopal教授のご紹介で学部長のTarun Panda教授と学長のBudaraju Srinivasa Murty 教授と面会し、E-ディフェンスの説明や今後の連携形態などについて議論することができ、大変貴重な時間を過ごすことができました(写真1)。
また、Panda教授のご案内でIITH内の様々な実験施設を見学させていただきました。午後は2日目から引き続きRajagopal教授の研究室に所属する大学院生の方々と意見交換・協働作業を行いました。この日は“フェーズフィールド法”を用いたコンクリート材料のひび割れ解析について、学生の方から研究プレゼンをしていただきました。 
そもそもコンクリート材料で生じるひび割れ現象は、その空間的な不連続性からコンピュータ上で扱うことが極めて困難な問題です。フェーズフィールド法は材料の“相”(例えば、流体、固体、気体など)の扱いに長けた手法で、ひび割れ部分を健全な部分とは別の相として扱うことでひび割れの進展を精緻かつ安定的に予測できうるものとして近年注目を集めています。Rajagopal教授はこのフェーズフィールド法を用いたコンクリート材料の解析に取り組んでおられ、その理論や技術について専門的なご説明を頂戴できました。
ワークショップ説明の様子
写真2 ワークショップの様子
  滞在4日目はIITHと防災科研の合同ワークショップ(写真2)として、両機関から研究発表および意見交換を行いました。防災科研からは、私が建築構造物と津波の連成シミュレーションについて発表を行いました。また、山下研究員からは数値震動台のプロジェクト構想についてご発表がありました。IITHからは、Kumar助教授がインドにおける都市域地震応答シミュレーションの取り組みに関してご発表されました。また、Rajagopal教授と数名の学生の方々から、フェーズフィールド法を用いた様々な解析例をご紹介いただきました。いずれの発表においても質疑応答の時間には活発な議論がなされ、総じて非常に充実したワークショップとなりました。  今回の訪印では多くの方々と議論させていただくことができ、本共同研究を推進するにあたり、非常に意義のある活動となりました。また、個人的にも初インドということもあり、色々な意味で刺激的な1週間を過ごすことができました。最後に、訪印の準備と事務手続きにご協力いただきました武藤さんと増島さん、現地で大変親切にアテンドいただいたRajagopal教授、Kumar助教授、学生の皆様に改めて感謝申し上げます。

 地震減災実験研究部門 特別研究員 大村 浩之

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防災科研一般公開への出展~地震が、部屋にいる時起こったら?
VRで地震を体験しよう!
みんなで楽しく防災を学ぼう!ポスター
一般公開パンフレット
  8月5日、広く一般の方々に科学技術への理解と関心を深めていただき、日本の科学技術の振興を図ることを目的として、防災科研では、つくば本所(つくば市)で「一般公開」を開催しました。E-ディフェンスからは、VRで地震被害を体験するコーナーを出展しました。VRで地震被害を体験するコーナーは、特に人気の企画(上位3つのうちの1つ)で、
約130組の皆様に体験いただきました。
E-ディフェンスでは、「大地震から構造物被害軽減に如何に貢献するか」を目指し、研究に取り組んでいます。VRで地震被害を体験するコーナーでは、以下の3つの内容の体験と実験を実施しました(写真1)。
① VR地震体験コーナー
② ストローハウス作成コーナー
③ 小型振動台で実験
(②で作成したストローハウスを揺らす実験)
で作成したストローハウスを揺らす実験)

「①VR地震体験コーナー」では、E-ディフェンスにて、実大規模の建物に兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の地震を前後・左右・上下の三次元に直接与えた際の揺れている映像をもとに、地震を体験いただきました(写真2)。
展示コーナー
写真1 展示の様子
360°を撮影した映像になりますので、ご自身が動くと部屋全体を見ることができるとともに、本棚が倒れてくる音や食器が転がってくる音を聴くことができます。子供からは、「地震は怖い」、大人からは「本棚を固定しないと」という声が聞かれました。 子供からは、「地震は怖い」、大人からは「本棚を固定しないと」という声が聞かれました。少しでも気づきを得ていただけたのかな、と思います。
VR体験コーナー
 写真2 VR地震体験コーナーの様
「②ストローハウス作成コーナー」では、ストローとクリップを使って家の模型を作り、家を強くする方法を勉強しました(写真3)。「③小型振動台で実験」では、自分で作った家の模型を小型の振動台にのせて、地震に耐えられるか、体験してもらいました(写真4)。
ストローハウス体験コーナー
写真3 ストローハウス作成コーナーの様子
子供達は、強い家をめざして、何度もストローハウスを作り直していました。強い家を作るための「斜材」についての説明にも、子供達は興味津々でした。斜めに掛ける部材を設置することで、地震に強い家が作れることを、体験いただくことができました。夏休みの自由研究も、これで大丈夫ですね。
VRで地震被害を体験するコーナーは人気の企画のため事前申込制でしたが、早々に予約が埋まったそうです。予約した皆様に、あまりお待ちいただくことなく、ご案内することができました。

写真4 ストローハウス作成コーナーと小型振動台での実験の様子
今回は兵庫県三木市からの参加となり、会場設営や当日の運営等、広報・ブランディング推進課の皆様には、大変お世話になりました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。
説明員の9名写真
写真5 説明員集合写真
説明員紹介(写真5の左から)
・合津副部門長: 研究員を支える力持ち。ストローハウスの説明はベテランの域。
・福井研究員: 子供にも理解できる巧みな話術は、まさにスティーブ・ジョブズ。
・佐藤研究員: 今回の展示の総監督。豊富な知識の持ち主。困ったら、サトさん。
・木下部員: 事務局総取り纏め。熱中症対策で飲み物をサービスしてくれる。
・増島部員: 受付担当。混雑状況に応じて、来場者の皆様をスムーズにご案内。
・小松研究員: VR担当。動画像のコンテンツ制作ならおまかせ。
・大村研究員: 期待の大型新人。優しいお兄さんは子供達から大人気。
・武藤部員: 展示品の物品手配から運搬までバックヤードをしっかり支えてくれる。
・阿部部員: しっかり、丁寧、時には大胆に展示対応。ベテランならでは。
・青木研究員: VR用の防災科研オリジナルの紙製ゴーグルを、抜群のセンスでデザイン。

 地震減災実験研究部門 特別研究員 小松 佑人

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