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Published by E-Defense, NIED May8,2023 Vol.19 No.1
10層鉄骨造オフィス試験体による動的特性評価実験報告
 1. はじめに
近い将来の発生が確実視されている南海トラフ地震、首都直下地震などに向けた事前準備と、地震後の速やかな判断・対応が行えるレジリエントな社会を実現することは喫緊の課題です。防災科学技術研究所の地震減災実験研究部門では、実際の建物の揺れの特性(動的特性)を地震により生じた揺れ(応答)から評価するアルゴリズムと、建物の地震応答を取得するとともに地震後に建物の状況を速やかに表示するための「外装材内蔵型センサ アラートシステム」を有意な情報を作り出す技術として開発しています。2023年の2月15、17、24日に、E-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験施設)を用いて、研究開発の成果を実証するための、「10層鉄骨造オフィス試験体による動的特性評価実験」を実施しました。

 2. 実験概要
2.1 試験体
この実験では、社会経済活動の中心となる、中層のオフィスビルをターゲットに設定しました。試験体の平面形状は12.0m×8.0m、階数は10で、高さは26.9m、重量は約700トンです(図1)。試験体の骨組は鉄骨造で、一般的なオフィスビルを想定して、現行の耐震基準に従って設計しました。試験体の外観(図2)にみられるように、建物外周のほぼ全面がカーテンウォールで覆われています。外装材の設置状況を忠実に再現した実大規模の試験体を対象とする震動実験は世界初です。

(a) 平面図 (b) 断面図(長辺方向) (c) 断面図(短辺方向) 
図1 試験体の概要図  

   
(a) 製作中の試験体 (b) 震動台への設置

図2 実大10層オフィスビル試験体

 2.2 加振内容
震動台上に中小地震を再現して建物に損傷が生じない場合の応答を取得する実験と、大地震を再現して建物に損傷が生じる場合の応答を取得する実験を繰り返し行いました。中小地震加振には、東北地方太平洋沖地震(2011年)と熊本地震(2016年)で防災科研のK-NETにより観測された計測震度約4の余震を用いました。大地震加振では、兵庫県南部地震(1995年)で観測された地震波を用いました。

2.3 地震時における「外装材のセンサ化」と「被災の見える化」
地震による建物の揺れ(地震応答)を計測するセンサと、計測した地震応答から建物の被害状況を発光表示するためLED照明を建物の外装材と一体化した「外装材内蔵型センサアラートシステム」の研究開発を産学官共同で行い、社会実装を目指しています。
「外装材のセンサ化」では、建物の外装材であるアルミカーテンウォールにセンサを組み込み、地震応答を取得します。震動実験では、建物の変形の計測に適したセンサと地震応答データより被害状況を推定・評価する手法の実証を行いました。
「被災の見える化」では、アルミカーテンウォールに内蔵したLED照明が発光します。平常時にはLED照明を建物ファサードのライティングに使用し、地震時には建物の被災状況を即時にアラートとして発光表示します(図3)。
昼夜を問わず発生する地震による建物の被災状況を即時に見える化するシステムは、地震発生後の速やかな建物利用の可否、避難行動の判断に大きく役立つと考えられます。
   
LED照明 <平常時の表示例> LED照明 <地震時の表示例> 
図3 アルミカーテンウォール内蔵型センサアラートシステム 

 2.4 内部空間の有効活用
試験体の内部空間を有効活用する為に、共同研究実験や、外部機関への貸与を行いました。その結果、大学6件、研究機関1件、民間企業10件の合計17機関が参画し、試験体内の空間の約90%が利活用されました。試験体内部の利用状況を、図4に示します。このように、試験体内部の余剰空間を有効に活用することで、多くの研究成果を創出し、社会に展開していきます。
 
図4 試験体内部の利用状況

3. 実験結果
  図5に、4回の東北地方太平洋沖地震の余震による加振時に評価した建物の硬さ(剛性)を示します。グラフの横軸が加振の日付、縦軸が評価した剛性の値を表しています。グラフから、安定して剛性を計測、評価できていることが分かります。また、2月17日と2月24日の間に、地震による破断を模擬して、3階の長辺方向の筋交いを撤去しました。長辺方向の3階の剛性が2/17後と2/24の間で減少しており、筋交い撤去による特性の変化を捉えられています。
 加振実験終了後のLEDアラートの発光を、図6に示します。この実験では、各階に生じた柱の傾きの大きさを、緑色、黄色、赤色で段階的に表示しました。建物各面の外側は現在の傾きを、その内側は地震中に生じた最大の傾きを表しています。外側のLEDは緑色に発光しており、地震後の柱はほぼ傾いていない状態に戻っている一方、内側のLEDは地震中に特に下層階の柱が大きく傾いたことを示しています。
今後、実験結果のさらなる分析を進めていきます。
     
(b) 長辺方向 (Y方向)
 
(a) 短辺方向 (X方向)
図5 各階の硬さ(剛性)の評価結果 図6 加振後のLED照明の発光

図7 集合写真

謝辞
 この実験の実施にあたり、地震減災実験研究部門と兵庫耐震工学研究センターの皆様、ならびにつくば本所の関連部署の方々に、多大なご支援とご協力を頂きました。また、多数の外部機関殿にご参画頂き、数多くの耐震工学上価値のある研究課題に取り組むことができました。厚くお礼を申し上げます。


文責:地震減災実験研究部門
    梶原浩一、藤原淳、岸田明子、西崚汰

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「最先端の構造シミュレーションの地震防災への活用に向けて
-数値震動台研究開発プロジェクト成果発表会 -」報告
 地震減災実験研究部門では、E-ディフェンス実験のデータを活用して、地震による構造物の損傷破壊過程、並びに、室内被害を再現するシミュレーションシステム(数値震動台)を開発してきました。2023 年3月 27 日(月)に建築会館ホールにて、数値震動台研究開発プロジェクトの成果発表会を開催しましたので以下に報告いたします。
 中埜良昭部門長より開催挨拶の後、部門の研究の全体像と数値震動台の位置づけについて説明しました。続いて、文部科学省研究開発局地震・防災研究課の郷家康徳課長よりご挨拶をいただき、トルコ地震における被災者へのお見舞いのお言葉の後、これまでの取組の成果と今後の研究構想についての発表への期待をお話しいただきました。
 基調講演には理化学研究所計算化学研究センターの大石哲チームリーダーをお招きして、「近未来の複合災害の減災に資するデジタルトランスフォーメーション」の題目でご発表いただきました。本発表では防災シミュレーションのモデルを自動構築する技術としてデータ処理プラットフォーム(DPP)についてご紹介いただきました。数値震動台を都市空間の防災シミュレーションに展開していくためにDPPとの連携が有用であると認識しました。
 基調講演に続いて数値震動台研究開発プロジェクトの成果発表を行いました。まずは、数値震動台研究開発分科会の大崎純委員長(京都大学)より、防災科研の第4期中長期計画期間(7年間:2016年度~2022年度)での数値震動台研究開発プロジェクト全体の総括とE-ディフェンス等の実験研究との連携推進に関する今後の課題についてご発表いただきました。建築WGの宮村倫司主査(日本大学)より、建築構造の耐震性評価に向けた実験の再現解析の成果についてご発表いただきました。データサイエンスWGの小檜山雅之主査(慶應義塾大学)より、詳細シミュレーションを活用した構造物の損傷評価等に向けたデータ科学の取組についてご発表いただきました。最後に私から第5期中長期計画(7年間:2023年度~2029年度)で実施を予定している数値震動台をコア技術とした都市空間レベルの数値解析基盤の研究開発の構想について、BIMと詳細FEMのモデラーの連携、詳細FEMのサロゲートモデル、実験と数値解析の多点比較ソフトウェア、地震リスク評価、WebGISでの可視化といった要素技術の準備状況と併せて紹介しました。
 成果発表会には、建設・インフラ関係やCAE関係の民間企業から大学・研究機関等の幅広い分野から合計61名の方にご参加いただき大変盛況な会となりました。ご参加いただきました皆様、これまでプロジェクトの推進に多大な貢献を頂きました分科会並びにWGの先生方、開催準備から当日の開場運営に至るまでご協力いただきました研究推進室の木下さん、司会進行を務めていただきました藤原さん、当日の受付、写真撮影、議事録にご協力いただきました小嶋さん、阿部さん、広報課の今野さんと大河内さんを始め本プロジェクトにご支援いただきました皆様に感謝申し上げます。

図1 基調講演での質疑応答 図2 大崎分科会委員長による
第4期中長期総括
図3 会場風景(質疑応答) 図4 山下主任研究員による
第5期中長期の構想 

文責:地震減災実験研究部門
    山下拓三


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