第3部 14:25〜15:55
「東北地方太平洋沖地震」の教訓を南海トラフ地震へ (講演概要)

汐見 勝彦

地震津波防災研究部門・地震津波火山ネットワークセンター

2002年防災科学技術研究所入所、2016年より地震津波防災研究部門 副部門長。専門は固体地球物理学。東北大学大学院理学研究科にて博士(理学)を取得。防災科研Hi-netの整備・運用に携わりつつ、地下構造解明や地震活動把握に関する研究開発に従事。地震調査研究推進本部長期評価部会委員他を務める。

地震観測網がとらえた東北地方太平洋沖地震

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、最大震度7の強い揺れと太平洋沿岸部を襲った津波により甚大な被害が発生しました。

図に東北地方太平洋沖地震前後5年間に発生した地震の震源の分布を示しました。図の右側に示されるように、東北地方太平洋沖地震後、その余震として暖色で示された浅い地震が非常にたくさん観測されました。さらに、この地震により、震源から遠い長野や静岡でも強い地震が誘発されたことを記憶されている方も多いと思います。

東北地方太平洋沖地震は、日本での近代的な地震観測開始以降、初めて経験したマグニチュード(M)9の超巨大地震でしたが、世界で初めて高密度な地震観測網が観測したM9の地震でもありました。東北地方太平洋沖地震前後の地震観測データの解析を通じてこの地震の特徴を理解するとともに、この地震で経験した様々な課題を克服することで、今後、発生が懸念されている南海トラフの巨大地震への備えにつなげることが重要です。

中村 洋光

マルチハザードリスク評価研究部門

2001年東京大学大学院理学系研究科単位取得退学。博士(理学)。同年財団法人鉄道総合技術研究所入所。2006年独立行政法人防災科学技術研究所入所。主に、リアルタイム地震被害推定システムの開発や地震や津波のハザード・リスク評価研究に従事。

巨大地震の多様な発生の可能性に備えるためのハザード・リスク評価

2011年東北地方太平洋沖地震を踏まえて、これまでの南海トラフの地震発生の長期評価の見直しが行われ、従来よりも評価対象範囲を拡大し、かつ南海領域、東海領域というような区分はせず、全体を一つの発生領域として地震発生の多様性を考慮した評価となりました。

このように多様な発生形態をもつ地震であるから、それに起因する地震動や津波(ハザード)、それらによって及ぼされる被害(リスク)というのも多様なものが想定されます。本講演では、これらを適切に評価し、事前の備えに資することを目的としたハザード・リスク評価研究や研究成果としての情報を提供する基盤システム(J-SHISやJ-THIS)を紹介します。

J-SHIS → J-THIS

齊藤 竜彦

地震津波防災研究部門

東北大学大学院にて理学博士の学位を取得。2009年防災科学技術研究所入所。専 門は地震学。現在、地震津波防災研究部門で、巨大地震の発生過程に関する研究を 実施。

室内実験とシミュレーションで迫る巨大地震の震源像

現在行われている地震発生の長期評価では、過去に発生した地震の規模と発生頻 度をもとに、将来発生する地震の規模と発生確率を予測しています。しかし、巨大地震は発生毎に震源域が異なりうることや、各震源域の破壊に時間差が生じる可能性が明らかとなっています。そのため、地震規模だけでは無く破壊過程の多様性 を考慮に入れた新しい長期評価技術の開発が必要とされています。

本発表では、地震発生の原動力となる応力の蓄積、地震破壊の多様性を引きおこす摩擦則を、基盤観測網データと室内実験データから明らかにし、巨大地震の発生と結びつける力学モデルの開発を紹介します。謎の多い巨大地震の破壊過程に対して、室内実験で得られる地震発生機構の知見を活用することで、将来南海トラフで発生し得る巨大地震の震源像に迫ります。

青井 真

地震津波火山ネットワークセンター・南海トラフ海底地震津波観測網整備推進本部

1996年に防災科学技術研究所入所、2016 年より地震津波火山ネットワークセンター長。陸海統合地震津波火山観測網「MOWLAS」(モウラス)の統括、地震や津波に関するリアルタイム防災情報の研究、波動伝播に基づく地震動の大規模数値計算手法の開発に従事。2019年より南海トラフ海底地震津波観測網整備推進本部副本部長兼務。

南海トラフ巨大地震に備えるための新たな観測網N-net~東日本大震災を教訓に~

2011年東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9という有史以来日本列島周辺で起きた最大級の地震で、二万人を超える方が死亡または行方不明となりました。地震発生当時、陸域には既に数千点に及ぶ地震計や震度計が設置されているなど手厚い観測の体制が整っていたのに比べ、沖合海底における常時観測点は50地点にも満たないもので、特に東北地方太平洋沖地震の震源域における観測点はわずか2地点と手薄なものでした。

東日本大震災を引き起こしたような海溝型巨大地震の規模や生じる津波の高さを震源域から遠く離れた陸域における地震観測のみから即時に推定することは非常に困難であり、海域における観測データの不足により津波警報や緊急地震速報が極めて過小評価となったことが大きな人的被害を生んだ一因とされています。東日本大震災の教訓を踏まえて海域における観測網の構築が進められ、現在では防災科研のS-netやDONET、さらには気象庁などいくつかの機関により太平洋沖合における観測体制が整いつつあります。しかしながら、100年から150年ごとに繰り返し発生する南海トラフ巨大地震の想定震源域の西半分は現在でも観測の空白域となっています。

本講演では、東北地方太平洋沖地震発生以降に設置された観測網やそこから得られるデータがどのように活用されているかを振り返ると共に、近い将来発生が懸念される南海トラフ巨大地震への備えとして構築が進められている南海トラフ海底地震津波観測網N-netについて紹介します。

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