国家レジリエンス研究推進センター

NR7

市町村災害対応統合システム開発

災害対応の最前線における迅速・合理的な意思決定に向けて

背景
激甚化する風水害における犠牲者ゼロを実現するためには、適時的確な避難行動が必要です。市町村では、進展する災害状況の迅速な把握と、それに基づく合理的な対応判断が課題となります。
研究内容
膨大な情報を解析し、対応の判断に必要な情報を提供するAIを開発します。特にAIや情報システムの進化と、人と組織の判断力・対応力の向上を同時に実現するための訓練環境を開発します。
成果目標
多様な災害シナリオを簡単に想定し、多様な状況下での判断や対応を検討・訓練できるシステムを構築します。個人や組織の訓練を支援し、風水害時の対応力の全国的な底上げを図ります。
研究統括
鈴木 進吾
コーディネーター
須藤 三十三
参画研究機関
国立大学法人九州大学(研究開発機関:研究責任者の所属機関)/ 一般財団法人河川情報センター / KDDI株式会社 / 応用地質株式会社 / 国立研究開発法人防災科学技術研究所 / 国立大学法人千葉大学 / 公立大学法人兵庫県立大学

避難のための判断と行動を支援

災害時、市町村や住民は、これまでに経験したことのないような状況に直面し、どのように対応するかという判断を行わなければならなくなる局面が発生します。しかしながら、様々な案件、各方面への連絡・調整に追われ、人手と時間がなく、情報の見落とし等が発生する場合や、経験やノウハウが不足している場合など、タイムリーに合理的に判断、指示、実行するのが困難な場合が多々あります。

防災科研では、SIP第2期の課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の研究開発項目の1つである「Ⅶ.市町村災害対応統合システム開発」に参加し、九州大学を代表研究開発機関として、特に風水害時の避難に関わる判断を取り上げ、判断を支援し、避難を確実にする仕組みの研究開発を始めました。2015年関東・東北豪雨、2016年北海道・東北豪雨、2017年九州北部豪雨、2018年西日本豪雨と、毎年深刻な水害が発生しています。風水害は降雨、河川への流出、斜面崩壊、氾濫、浸水と時系列に発生していく災害で、被害を起こす事象の発生までのリードタイムで適切に判断し、避難を完了することが重要です。しかしながら、限られた人員、対応経験、時間の中で、爆発的に増加する気象情報・警報・雨量・水位観測情報の把握、関係機関等への対応に追われ、また、合理的に判断を行うための仕組みもされていないのが現状です。

この取り組みでは、AI(人工知能)やIoT等の情報技術と防災科学をつなぎ、膨大な情報から判断を行うための支援システムや仕組みを市町村災害対応統合システムとして開発し、避難判断に必要な「情報の欠落ゼロ」、避難勧告等の発令の「出し遅れゼロ」、発令単位の小エリア化等の合理化により住民の「逃げ遅れゼロ」、判断・対応力向上のための職員と住民の訓練体制の構築により「対応できないがゼロ」、そして、これらによりリードタイムがある災害における「犠牲者ゼロ」をめざします。 

避難勧告等発令判断をAIで支援

市町村災害対応統合システムの中心となるのは、膨大な情報を地域特性も含めてAIを活用して処理・分析し、避難勧告等発令判断を支援する情報を市町村の意思決定者に提供し、適時的確な判断を可能にするシステムです。このシステムは、九州大学を中心として、河川情報センター、KDDI、応用地質の共同で開発しています。地域の過去の災害データ、想定データなどの静的情報、リアルタイムな気象データ、河川データおよびそれらの予測データ、人や自動車のリアルタイムデータ、水防団員からのデータ等膨大な関連データを取得し、これらのデータをビッグデータ分析・機械学習・深層学習などのAI技術を活用して短時間で分析評価します。そして、地域特性を考慮したうえで、河川氾濫、内水氾濫、斜面崩壊、道路冠水等の避難勧告等発令判断の根拠となる信頼度の高いリスク指標として250m四方の区画単位で時々刻々と算出し、わかりやすく市町村の意思決定者に届けるようにしていきます。

これにより、避難勧告等の発令に必要な状況把握のため、勘案できる情報の種類と量を拡大し、各種情報の収集、集約にかかる職員の手間と時間を省き、当面の対応や判断に集中できる環境を作ることに貢献します。また、これまで自治体の経験やノウハウに任せられ、自治体ごとにバラバラだった各種情報からの判断方法をAIによって支援することで、発令タイミングと対象地域選定を高精度化し、住民の安全かつ確実な避難に寄与します。

  • 市町村災害対応統合システム開発の概要を図示しています 図1 研究開発項目「Ⅶ.市町村災害対応統合システム開発」の概要

判断力・対応力を向上させるための訓練を支援

犠牲者ゼロをめざすためには、前述のシステム構築のみならず、避難完了までの一連の流れに必要な対応や判断を、市町村職員も住民も事前に検討し、訓練し、その結果を振り返って、絶えず判断力・対応力を向上させておくことが必要不可欠です。また、緊急時に人がどのように行動するのかというデータを得て、人が行動しやすくなるようにシステムを継続的に修正・機能向上・進化させていくことも重要です。災害に対して情報システムと人がどのように連携すれば、確実な被害軽減につながるのかを研究することが必要です。

防災科研では、このような目的のもとに、判断力・対応力を向上させるための訓練支援技術の開発を担当します。まずは、全国の過去の被災経験等のデータと、前述の避難判断支援システムで集められる今後のデータをもとに、リアリティのある訓練を可能にする訓練シナリオを自動で作成する技術を開発します。風水害の様々なシナリオを、全国どこでも、誰でも、自らシミュレートできるようにし、時々刻々と変化していく状況下で、いつ、どんな判断、どんな対応をすべきかを考えられるような訓練システムを構築します。さらに、訓練結果を記録・整理し、判断や対応のタイミング・担当・連携などの計画を作成したり見直したりすることをサポートし、判断力・対応力を継続的に向上させるPDCAサイクルを確立することをめざします。

国家レジリエンス研究推進センター 研究統括

鈴木 進吾

すずき・しんご
2006 年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻博士後期過程認定退学。博士(情報学)。ひょうご震災記念21 世紀研究機構人と防災未来センター専任研究員、京都大学防災研究所助教を経て、2015 年より防災科学技術研究所勤務。津波の大規模数値計算技術の開発、市町村向け防災情報サービスプラットフォームのプロトタイプ開発等に従事。2018 年研究統括に就任。災害過程研究部門 副部門長。

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