研究開発課題「豪雨による土砂災害の発生予測に関する研究」
に関わる事前評価結果について
1999年06月23日
1.はじめに
防災科学技術研究所は、平成9年8月7日に内閣総理大臣が決定した「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針」に基づき、同年12月17日に「防災科学技術研究所における研究開発等実施要領」を策定し、今後の研究開発課題等の評価を本要領に沿って行うこととした。
本要領においては、新たに重点的資金により実施すべき研究開発課題を選定する場合は、原則としてあらかじめ外部の専門家等による事前評価を実施することとされている。
平成12年度概算要求を行うにあたっては、特別研究1課題を対象とすることとした。
2.対象課題の概要
評価対象である特別研究「豪雨による土砂災害の発生予測に関する研究」は、豪雨による土砂災害を防止・軽減するため比較的大規模な地すべり・崩壊の発生場について、防災科研が独自に進めている地すべり地形分布図の作成を推進すると同時に、崩壊発生の場として抽出された地すべり地形の危険性に関する評価付けを行う。斜面が崩壊した場合を想定し、崩壊土砂による被災域の範囲を推定する手法に関する研究を行うとともに、これらの成果を含めた斜面情報をデータベース化し、インターネットをとおして地方自治体・研究機関などに提供する。
また、豪雨時に発生する表層崩壊に関しては、高性能・高分解能のマルチパラメータレーダーを導入し、きめ細かな降雨量分布などの推定手法の開発並びに表層崩壊発生と降雨との関係を明らかにする。
以上の成果を、GIS上で3次元化・可視化することによって土砂災害発生の予測を容易に、かつ、的確に行うことが出来る支援システムを開発し、防災関係機関に提供する。
本研究課題の計画年度は平成12年度~平成17年度の6ヶ年を予定している。
3.評価目的・内容等
- 研究開発の方向性・目的・目標等の決定及び着手すべき課題の決定
- 研究開発計画・研究開発手法の妥当性
- 研究資金・人材等の研究開発資源の配分の決定
- 期待される成果・波及効果の予測の判断に資する。
4.評価方法
研究開発課題外部評価委員会を設置・開催し、研究責任者から新規研究開発課題の計画等の説明を受け、質疑応答・議論を踏まえたのち委員長は全体をとりまとめ、報告書を所長に提出する。
5.評価結果
事前評価報告書
研究課題名:豪雨による土砂災害の発生予測に関する研究
評価委員会委員長名:古谷 尊彦 作成年月日:平成11年6月23日
評価の視点 | 評価結果 |
---|---|
[研究目的と目標] 問題意識の明確さ 研究目標の妥当性 研究課題の独創性 |
問題意識、研究目標の妥当性は明確であり、課題の独創性は高い。陸域の地震の発生機構については、多くの課題が残されおり、これらの基礎的な研究は重要である。なお、サブテーマ2の目標が十分に絞り込まれていないとの意見があった。 |
[社会的背景] 必要性及び緊急性 国研が実施する意義 |
社会的な必要性及び緊急性はかなり高く、国の試験研究機関として実施することの意義は高い。ただし、実際の防災に寄与するまで、かなり長い道のりがあり、国民の期待との間には大きなギャップがある。このギャップについては、社会へ向けて継続的に説明することが肝要である。 |
[研究構成と内容] サブテーマ設定の妥当性 アプローチの妥当性 研究内容の妥当性 研究ポテンシャル |
これらのそれぞれは、かなり高い。 |
[研究計画と予算] 年次計画の妥当性 資金規模の妥当性 |
研究スケジュール設定の妥当性は明確もしくは普通と意見が分かれ、不明、やや不明確との意見もあった。 資金規模は現状では適当であるが、計画の改善(後述)を考慮すれば、不足している。 |
[研究実施体制] 実施体制の妥当性 |
実施する組織構成および人員配置に関しては、やや不足と考えられる。特にサブテーマ1は、大型規模の研究であるが人員が不足している。 |
[研究成果の達成度] 全体目標の進捗度 サブテーマの成果達成度 成果の反映方法 期待される効果 関連分野への波及効果 |
研究全体の目標と進捗度については、計画どおりであると考えられるが、達成している、不明、遅れているとの意見もあり、評価が分かれた。 サブテーマ1では4つの活断層の掘削が行われたが、その結果何がわかったのかが明らかではない。 サブテーマ2の成果と達成度は、一部達成している。王滝地域での観測に地殻変動の観測(GPS、歪み計、傾斜計)など、地震観測以外の項目を増やして現象の特定をしなければ、仮説の検証に至るのが困難であろう。 研究成果の活用・反映方法は普通で、期待される効果はやや高いと考えられる。しかし、研究成果の活用・反映方法については、明確からやや不明確まで、期待される効果については、高いから低いまで、意見が分かれた。 サブテーマ1については、かなりの年月と予算をかけたわりには、生産物が少ないとのコメントがある。 |
[その他] | 仮説の検証によって地震発生の過程に迫るアプローチは、試験研究機関として評価できる。 サブテーマ1は日本ではパイオニア的な研究を進めて来た。防災科研がこの課題に取り組まなければ、この分野は日本で全く育たなかったであろう。しかしながら、どちらのサブテーマも試行段階に留まっているように見える。予算、人員を増やして、実例を増やすことと、多項目の観測を行う必要があろう。 サブテーマ1の例について言えば、一つの活断層で二ケ所以上の掘削を行うこと、サブテーマ2で言えば、上記の各種観測および王滝以外のテストサイトでの観測等である。なお、サブテーマ2については、中規模地震の結果が大地震にそのまま適用可能かどうかは、自明ではないとの指摘があった。 |
[総合評価]
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|
コメント | 総合評価はAとしたが、B、Cとする意見もあり、改善すべき点があると考える委員が多数を占めた。 予算、人員を増やすとともに、企画の段階から大学等の研究者との共同研究として衆知を集め、防災科研のイニシアチブのもとで、計画を実施することが望ましい。例えばサブテーマ1に関して言えば、活断層研究者との協力が不十分である。 |
6.外部評価委員
(評価対象課題:豪雨による土砂災害の発生予測に関する研究)
氏名 | 所属 | |
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委員長 | 古谷尊彦 | 千葉大学大学院自然科学研究科教授 |
委員 | 井野盛夫 | 財団法人静岡総合研究機構 防災情報研究所長 |
委員 | 岩松 暉 | 鹿児島大学理学部教授 |
委員 | 佐々恭二 | 京都大学防災研究所教授 |
委員 | 山岸宏光 | 新潟大学理学部教授 |
委員 | 山田 正 | 中央大学理工学部教授 |
(順不同、敬称略)
7.委員会プログラム
平成11年6月22日(火)
- 11時30分~11時40分
- 所長挨拶
片山所長 - 11時40分~11時45分
- 委員紹介
田中管理部長 - 11時45分~11時55分
- 外部評価/スケジュール説明
石田総括官 - 11時55分~12時05分
- 委員内部検討
- 12時05分~13時00分
- 昼食
- 13時00分~13時30分
- 全体構想「自然災害発生・被害予測の支援システムの開発」
大谷部長 - 13時30分~14時10分
- 全体計画「豪雨による土砂災害の発生予測に関する研究」
森脇室長 - 14時10分~15時15分
- サブテーマの説明・質疑応答
- 14時10分~14時50分
- 地すべり地形の抽出とデータベース化に関する研究
・地すべり地形の判読・分布図の刊行
・斜面情報のデータベース化
井口主任研究官 - 14時50分~15時40分
- 土砂災害危険性評価に関する研究
・地すべり地形の危険性評価
福囿主任研究官
・土砂流下堆積域の推定
森脇室長
・MPレーダーによる降水量推定と表層崩壊発生予測
岩波主任研究官 - 15時40分~15時50分
- 土砂災害発生予測の支援システムに関する研究
福囿主任研究官 - 15時50分~16時00分
- 休憩
- 16時00分~17時45分
- 意見交換、まとめ