お知らせ
紫綬褒章を受章
「発明改良:多年地殻変動の解析・評価法の研究開発に努め地殻活動の定量的推定モデルを開発した」功績により受章
紫綬褒章を、独立行政法人防災科学技術研究所 理事長 岡田義光 が受章しました。これは、科学技術分野における発明や、学術及びスポーツ・芸術分野における優れた業績のある者に賜る褒章で、今回「発明改良:多年地殻変動の解析・評価法の研究開発に努め地殻活動の定量的推定モデルを開発した。」功績により受章となりました。
概要
岡田義光は、弾性変形の計算式に断層のずれ、開口運動をといった多元的要素を導入するため、変形発生点と地表に設置した観測点との三次元的な相対位置関係をパラメータとして、発生地点での断層のずれの量や開口量と、3種類の観測量である変位・傾斜・歪を共通のパラメータで表現できるように関連づけ、これらの共通的なパラメータを基に、地表における構造的な変化を三次元で合理的に推定できる新たなモデル式を開発したとともに、これを基盤として地中の変化の定式化に取り組み、地中観測点の地表からの深さを加味して、地中の応力条件下での変位・傾斜・歪を定量的に推定する式を構築し、地中・地表の地殻変動観測量から地殻内部の変動発生源での変化を合理的に推定する体系的なモデル式を世界で始めて開発した。
詳細説明:地震・火山による地球変形の定式化(Okada model)
地震における断層運動のモデルとして使用される「ずれ断層」,および火山における岩脈貫入のモデルとして使用される「開口断層」を統一的に扱い,地震や火山によって地球表面および内部がどのように変形するかを計算する,もっとも一般的でかつ簡潔な形の理論式を導出した。この結果は,IASPEI(国際地震・地球内部物理学連合)の100周年記念号(2003年)に収録された用語集に「Okada model」として掲載され,当該分野の標準モデルとして国際的に広く認知されている。
地震や火山の源として,地中のある面を境とする変位の食い違いを考える「食い違いの弾性論」がSteketee(1958) により提唱されて以来,多くの研究者によって地球表面および内部における変形を計算するための理論式が提出されてきた。それらの多くは地震のモデルとしての「ずれ断層」を対象としており,また,冗長な表現式となっている場合が多かった。一方,火山のモデルとしての「開口断層」についてはあまり研究がなされておらず,ごく特殊な場合についての計算式が提出されているだけであった。
本業績では,一般的な「開口断層」について地球表面および内部の変形を求める理論的計算式を世界で初めて提出すると同時に,それまでバラバラに取り組まれてきた地震と火山のモデルを統一的に扱うことによって,ごく簡潔な美しい形の理論式を導いた点に独創性がある。
本業績により導かれた理論的計算式は,地震・火山現象をモデル化する際の標準的な道具として,また,特定の地震や火山現象が周囲にどのような影響を及ぼすかを考察するための強力な道具として,国際的に広く使用されている。本成果を発表した論文は,地震や火山に関係する国内外の学術雑誌において最もよく引用される論文のひとつとなっている。
近年,宇宙技術を用いたGPS(全地球測位システム)やSAR(合成開口レーダ)等により,地震や火山現象に伴う高精度かつ大量の地殻変動データが得られるようになり,Okada modelはそれらの現象を解釈する研究の促進に大きく貢献した。また,発生した地震や火山現象が周辺に及ぼす影響を評価したり,地震や火山噴火の発生そのものを理論的に考察する際にも,大きな貢献を果たしている。
我が国においては,1986年伊豆大島噴火,1989年伊東沖海底噴火,2000年三宅島噴火等の際に,地下におけるマグマ貫入の様子が本計算式によって定量的に評価され,避難対策にも役立てられた。また,大地震が発生した際,周辺のどの地域で大きな余震が発生しやすいかを判断したり,2000年伊豆諸島地域の大規模な群発地震活動が東海地震の発生にどの程度の影響を及ぼすかを判断したりするなどの際に,Okada modelが応用されている。