受賞一覧
2020年度日本地震学会論文賞を受賞しました
地震津波火山ネットワークセンターの久保田達矢特別研究員が、東北大学の日野亮太教授、東京海洋大学の稲津大祐准教授、東北大学の鈴木秀市技術職員とともに、2020年度日本地震学会論文賞を受賞しましたので報告いたします。
この賞は、日本地震学会の学術誌「地震(学術論文部)」、「Earth, Planets and Space」、「Progress in Earth and Planetary Science」に発表されたすぐれた論文により、地震学に重要な貢献をしたと認められる者を対象として日本地震学会から贈られる賞です。
受賞対象となった論文「Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state」(近地津波記録から推定した2012年プレート内ダブレット地震断層モデル:2011年東北地方太平洋沖地震前後のプレート内応力場)は、東北沖地震後に大地震の発生が懸念されるアウターライズ域で発生する海洋プレート内地震発生域における応力・強度状態を定量的に明らかにするとともに、沈み込む直前の海洋プレートがうける構造改変過程の解明に資する知見も提供しました。いずれも沈み込み帯における地震テクトニクスの理解に重要な貢献であると言えることから、地震学会論文賞にふさわしいと判断され今回の受賞に至りました。
授賞式は、2021年10月の日本地震学会2021年度秋季大会で行われる予定です。
授賞式(2021年10月16日)※2021年10月19日更新
授賞式が、2021年10月16日に日本地震学会2021年度秋季大会(オンライン)にて開催されました。
受賞対象論文
- Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state
-
著者:Kubota, T.(久保田 達矢), Hino,R.(日野 亮太), Inazu, D.(稲津 大祐)and Suzuki, S.(鈴木 秀市)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2019)6:67
DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-019-0313-y
受賞理由
本研究は、2012年12月7日に太平洋プレートの海溝軸近傍で発生した2つの地震の詳細な震源解析に基づいて、2011年東北沖地震による海洋プレート内部の応力場変化を推定したものである。
海溝軸近傍のプレート内部では、プレートの折れ曲がりによって、浅部、深部にそれぞれ水平引張、圧縮場を生じ、その境界が中立面となる。2011年東北沖地震の発生によって、引張場で生じる正断層型の微小地震活動の下限が25kmから35kmに深化したとの報告もあったが、詳しいことはわかっていなかった。2012年12月7日に、プレートの深部(~60km)で逆断層型の地震が、浅部(~20km)で正断層型の地震がほぼ同時に発生するというM7級のイベントがあった。著者らは、この二つの地震の有限断層モデルを明らかにすることで、太平洋プレート内部の応力分布を調べることを着想した。そして、遠地地震波形と余震分布の解析に加えて、東北大学のグループが2011年以前より継続して展開してきた海底水圧計アレイが観測した震央近傍の津波波形を用いた詳細な解析により、2つのサブイベントの有限断層モデルを高い解像度で求めることに成功した。その結果、プレート浅部で生じた正断層型地震の断層面の下限が深さ35kmと推定され、東北沖地震前の正断層型地震活動の下限(25km)よりも有意に深くなっていることを示すことができた。著者らは、東北沖地震について求められた応力解放量(~20MPa)を用いてこの変化を説明することを試み、プレート形状から期待される応力プロファイルと断層強度プロファイルとの定量的な比較を行っている。その結果、通常期待される摩擦係数(0.6)の下では、観測された中立面の深化には300MPaの応力変化が必要となってうまく説明できないことがわかった。さらに著者らは、流体などの存在によりプレート表面から深さ30~35kmまでの範囲の断層の摩擦係数が0.2より小さくなっているとすることで、本研究の観測結果を東北沖地震の応力解放量と整合的に説明できることを示した。
本論文は、東北沖地震後に大地震の発生が懸念されるアウターライズ域で発生する海洋プレート内地震発生域における応力・強度状態を定量的に明らかにするとともに、沈み込む直前の海洋プレートがうける構造改変過程の解明に資する知見も提供した。いずれも沈み込み帯における地震テクトニクスの理解に重要な貢献であると言える。
以上の理由により、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。
受賞コメント
この論文は、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が東北日本沈み込み帯に与えた影響を詳細に研究したものです。その論文が、東北沖地震から10年という節目のタイミングで、非常に栄誉ある賞に選ばれたことを大変うれしく思っております。
現在、東北沖には日本海溝海底地震津波観測網S-netも展開され、「東北沖地震後」の沈み込み帯の状態をごく近傍で詳細にモニタリングすることが可能になりつつあります。このようなデータを活用し、今後、沈み込み帯における地震テクトニクスの理解に資する研究を進展してまいります。
本研究を進めるにあたり、多くの方々と議論いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。