受賞一覧
2021年度日本地震工学会論文賞を受賞しました
マルチハザードリスク評価研究部門の先名重樹主幹研究員が、2021年度日本地震工学会論文賞を受賞しましたのでお知らせいたします。

本賞は、「地震(学術論文部)」、「Earth, Planets and Space」あるいは「Progress in Earth and Planetary Science」に発表されたすぐれた論文により、地震学に重要な貢献をしたと認められる者を対象とした賞です。
受賞対象研究
- 2016年熊本地震により阿蘇カルデラで発生した帯状陥没のメカニズム
-

受賞理由
本論文は、2016年熊本地震により阿蘇谷の各地で発生した帯状陥没を対象として、そのメカニズムを明らかにしたものである。採用されたアプローチは、現地調査、住民へのヒアリング調査、地中管路の被害調査、合成開口レーダ解析、ボーリング調査、微動アレイ観測、土質試験、表面波探査、反射法探査、地震応答解析、残留変形解析など、非常に多岐にわたる。帯状陥没の発生状況に基づいて、かつて存在した湖の旧地形や、地盤構造の形成過程を明らかにした上で、帯状陥没を起こした湖成層の地盤は、珪藻と軽石を含む間隙比の大きな特殊な粘性土であり、繰り返し載荷によりせん断剛性が急減する特性を有することを明らかにしている。提案されたメカニズムは、お椀状の湖成層底面の辺縁部にみられたクラック・水平変位・陥没、および、中央部にみられた隆起などの地盤変状に対して統一的解釈を与えるものである。多くの専門家の知見を総動員し、細心の計測手法を駆使して多面的な調査・分析の結果に対して、総合的考察に基づき帯状陥没のメカニズムが明らかにされたことは、非常に貴重な学術的成果である。
以上要するに、本研究は新規性・信頼性の面で高い水準にある。また、帯状陥没は、住宅、道路、地中管路、農地、護岸などに甚大な被害をもたらすことから、今後の防災対策を考える上でも有用性が高く、発展性が期待できることから、本会論文賞に相応しいものと判断した。
受賞コメント
令和3年度日本地震工学会論文賞を拝受いただき、大変光栄に思っております。熊本地震における阿蘇地域で発生した地盤災害に関する今回の論文は、地震観測記録、ボーリング調査等の地質調査、微動探査等の物理探査、地形、航空写真、レーザー測量結果等の様々なデータを用いて、各分野の研究者が分析を行い、議論を十分に重ねた上でとりまとめた論文となっています。本論文の作成過程では、共同研究等における多数の外部組織とのスムーズな連携によってなされたものであり、防災科研の研究連携に関する1つの手本となる取り組みであったと考えています。今後も、所内外の様々な研究者と協力し、精力的に研究に取り組んでいきたいと思います。