受賞一覧
2024年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました
地震津波防災研究部門の福山英一招へい研究員、山下太主任研究員、大久保蔵馬契約研究員、溝口一生客員研究員、川方裕則客員研究員、前田純伶客員研究員が、徐世慶氏(南方科技大学)とともに2024年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました。
この賞は日本地震学会において、地震学の発展に関わる優れた技術開発および研究基盤構築の功績が認められた個人または団体に贈られるものです。
授賞式は日本地震学会2024年度地震学会秋季大会で行われる予定です。
受賞対象功績名
大型岩石摩擦試験機の開発と地震断層力学への貢献

受賞理由
地震の本質は断層の摩擦すべりであり、岩石の摩擦特性は単に断層がどれほどの力ですべり始めるかだけでなく、そのすべりがどの様に発展し終わるかという地震の多様性をも左右する重要な要素である。しかし地震観測等から断層の摩擦特性を推定するのは極めて困難なことから、主に室内実験により調べられてきた。ただし、通常の室内実験で使用されるセンチメートル級の試料で働く摩擦法則がキロメートル級の自然断層でも同様に働くのか、すなわち、岩石摩擦特性が断層面スケールに依存しないのかは長年の疑問であった。また、自然断層には存在するはずの様々な不均質が断層すべりに与える影響の解明も小さな試料を使った実験では限界があった。受賞者らはこれらの疑問に直接的に答えるため、メートル級の岩石試料を用いた実験が可能な大型摩擦試験機をこれまでに3台開発するとともに、それらを使った実験研究により地震断層力学を大きく進歩させてきた。
受賞者らが大型岩石試料を用いた実験研究を開始したのは2012年頃である。最初に開発した第一世代の試験機で実現された模擬断層面は長さ1.5m×幅0.5mもしくは0.1mで、数は少ないものの世界に存在している他の大型試験機(米国地質調査所等)と比べて特段大きいものではない。しかしながらこの第一世代の試験機は大型振動台をせん断載荷の動力として利用している点で極めてユニークであり、これにより高速(最大1m/s)かつ大変位(最大0.4m)で模擬断層をせん断させることが可能となった。この特長により、センチメートル級の試料を使った摩擦実験と同等の条件での実験が可能となり、結果を直接比較できるようになった上、断層面へ自然な不均質を導入することが可能となった。続いて開発した第二世代の試験機は、開発当時において確認できる限り世界最長の模擬断層面を実現したものであり、そのサイズは長さ4.0m×幅0.1mである。その大きさにも関わらず、垂直荷重の載荷にフラットジャッキとハンドポンプを使用することで省スペース化が図られており、文字通り室内での実験が可能となった。そして昨年、これまでの実験及び研究で蓄積された様々なノウハウが注ぎ込まれ、2024年現在において確認できる限り世界最大の、長さ6.0m×幅0.5mの模擬断層面を最大1mせん断可能な第三世代の試験機が開発されるに至った。これらの試験機を用いた実験研究の成果として、まず、第一世代の試験機で示された、岩石摩擦特性がスケール依存性を持つことを示した研究が挙げられる(Yamashita et al., 2015, Nature)。これは摩擦すべり中に作り出される摩耗物により断層面上に応力不均質が発生・発展することに起因するものであり、地震断層力学分野に大きなインパクトを与えた。また、断層面上の応力や形状の不均質が断層破壊速度やそのばらつき具合、さらにどの様な過程を経て本震に至るかに与える影響も示された(Yamashita et al., 2021, Nat. Comm.; Xu et al., 2023, Nat. Geosci.)。その他にも様々な研究成果が得られているが、いずれも断層面の有限性と不均質性が鍵となっており、大型岩石試料を用いた実験研究の重要性と必要性を示すものである。
機械は一般に、規模が大きくなるほど精度が落ち、また制御も困難になる。しかしながら高い再現性で精密な実験を成功させ、上記のような研究成果が創出されているのは、受賞者らが設計段階で事前検討を重ね、実現可能な範囲で必要な性能を達成できるよう試験機開発を進めたためであろう。加えて、大規模であっても局所的に発生する現象を正しく把握するための適切なセンサーの選択や配置、測定・収録システムの開発等、ハードウェアのみならずソフトウェア面での技術開発も重要なポイントとなっている。これらの研究成果は日本国内のみならず国外でも注目を浴び、当該試験機を用いた国際共同研究が実施されている他、米国コーネル大学等での新たな大型摩擦試験機開発の契機となる等、当該研究分野を牽引する重要な役割を果たしている。第三世代の試験機による研究が本格的に始まることでさらに重要度が増していくと期待される。
以上の理由により、受賞者らの優れた業績と地震学の発展への高い貢献を認め、日本地震学会技術開発賞を授賞する。
※2024年度日本地震学会技術開発賞より転載。