受賞一覧
2025年度日本雪氷学会平田賞を受賞しました
雪氷防災研究センターの田邊章洋契約研究員が、2025年度日本雪氷学会平田賞を受賞しました。
日本雪氷学会平田賞は、雪氷学の研究に顕著な成果をあげ、今後の発展を奨励することが適当と考えられる個人に贈られる賞です。田邊章洋契約研究員が取り組んできた、数理科学を背景とした雪氷現象の解明と災害研究への適用が、雪氷学の研究に雪氷学の研究に顕著な功績をあげ、今後の更なる発展を奨励することがふさわしいとして評価されたものです。
授章式は2025年9月9日の雪氷研究大会(2025・津)で行われました。

受賞件名
- 数理科学を背景とした雪氷現象の解明と災害研究への適用
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受賞概要
田邊章洋氏は、数理科学を背景として雪氷現象に関する研究に意欲的に取り組んでいる。たとえば雪崩災害の対策には、発生した雪崩がどこまでどれくらいの量が到達するかを定量的に見積もることが重要となるが、従来の雪崩ハザードマップは経験則に基づく簡易的なものであり、定量的な見積りは困難であった。近年、雪崩の運動モデルを用いた雪崩ハザードマップの構築が国際的に進んでいるが、モデルに入力する雪崩の発生体積、積雪の物理的性質、さらにはモデルに含まれる各種パラメータは不確実性を有する。こうしたパラメータの不確実性を定量的に考慮した確率論的ハザードマップの作成にあたっては、モンテカルロ法に代表される、入力値の分布に従って選択を繰り返す手法があるが、結果が十分に収束するまで膨大な計算が必要とされるため計算コストが高く、現実的とはいえない。そこで田邊氏は、数学的な操作によって計算回数を 低減させ、不確定性を決定論的に評価する手法の一つである多項式カオス求積法(Polynomial Chaos Quadrature:PCQ)を、雪崩のハザードマップの作成に 適用した。その結果、PCQ法がサンプリングベース手法に比べて大幅に少ない計算回数で、かつ高い精度を得られることを示し、その有効性を証明した。上記のほか、田邊氏はオープンソースの数値流体力学ツールボックスOpenFOAMに 基づく雪崩運動モデルを日本に初めて導入し、「雪氷」誌上にモデルの導入方法 から計算条件の設定、実行方法、計算結果の可視化に至るまで詳しい紹介を 行っており、雪崩ハザードマップ作成の基礎となる雪崩運動モデルの普及に大きく貢献している。
田邊氏の研究成果は、雪氷以外の幅広い分野にも適用が可能である。実際に田邊氏が2021年度から中枢メンバーとして企画開催に参画している「地球表層における粒子重力流:理論・実験・観測と防災への応用に向けて」 は、火砕流、 溶岩流、傘型火山噴煙、土石流、雪崩、洪水流、混濁流、地 すべりなどの統一 的理解と分野間の交流の活性化を目的とした分野横断型 研究集会であり、また日本地球惑星科学連合の年次大会においても同様の分野横断のテーマを提案するなど、他分野との交流を積極的に進めている姿勢は高く評価できる。
以上のように、雪氷学の分野で顕著な功績をあげたこれまでの一連の研究成果と将来性、さらには当該分野にとどまらない幅広い研究領域と積極的に 交流する姿勢を鑑み、田邊氏は今後の更なる発展を奨励するにふさわしい 研究者と判 断できることから平田賞に値する。
(2025年度学会賞受賞者の選考結果について、雪氷87巻4号(2025)より)
受賞コメント
このたびは栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。推薦していただいた方々、選考委員のみなさま、これまでご指導いただいた先生方ならびに関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
この賞を励みにして、今後もおもしろい研究を継続し、雪国の安全な生活につなげられるよう進めていきたいと思います。