受賞一覧
2022年度日本地震学会若手学術奨励賞を受賞しました
地震津波火山ネットワークセンターの久保田達矢特別研究員が、2022年度日本地震学会若手学術奨励賞を受賞しましたのでお知らせいたします。
この賞は、すぐれた研究により地震学の分野で特に顕著な業績をあげた若手研究者に贈られます。久保田達矢特別研究員の業績が優れていると認められ、その将来性が期待されるとして、今回の受賞に至りました。
授賞式は日本地震学会2023年度秋季大会で行われる予定です。
受賞対象研究
- 固体・流体地球を考慮した海底圧力データ解析による地震・津波・火山噴火現象に関する研究
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受賞理由
これまで受賞者は、東北沖をはじめとする海域で発生した地震の直上の海底観測データを活用し、沈み込み帯の地震・津波の発生の物理の理解に向けて研究を進めてきた。なかでも、受賞者は、地震波から津波・地殻変動、非地震性すべりまで広帯域かつ広ダイナミックレンジに観測可能な海底圧力計に着目し、地震・津波現象に関する研究を推進してきた。例えば、2011年東北地震の震源直上の地震動と津波が重畳する海底圧力記録を、固体-流体の結合系の連続体力学理論に基づき解析することで、巨大地震断層直上の地震波形を抽出することに世界で初めて成功した。また、一般的に長周期の津波(海洋長波)を想定する海底圧力データの解析において、固体-流体の理論に基づいて短周期の津波や地震動成分まで含めた広帯域な海底圧力モデリングを実現し、沖合の地震のセントロイド位置や応力降下量を高い信頼度で推定できることを示した。さらに、断層近傍の津波記録を駆使した解析により、東北地震の発生前後の沈み込み帯の応力場変化を明らかにするとともに、東北地震の断層面上の応力変化分布を高い信頼度で推定し、同地震の最大の特徴である浅部大すべりの力学的発生機構を明らかにした。最近では、2022年1月のトンガの大規模火山噴火時に大気波動に起因して生じた、異常に高速で伝播し、継続時間のきわめて長い特異な津波の発生・成長メカニズムを世界に先駆けて提唱するなど、研究業績は多岐に渡る。
加えて、受賞者には海底観測機器の組立や設置回収の経験もある。防災科学技術研究所では、S-net観測網の基本性能評価など地震学の基盤を支える重要な貢献も果たしており、臨時観測から基盤観測の現場においても存在感を示している。
受賞者は、最新の海底観測と連続体力学の両面における知識に裏打ちされた独創的な発想により、海底圧力観測データの可能性を格段に押し広げてきた。「何が起こったか」を明らかにする運動学的地震像と「なぜ起こったか」を解き明かす力学的地震像とを強く結びつける地震学研究を指向しており、次世代の地震科学の創成を目指している。
受賞コメント
このたびは、非常に栄誉ある賞をいただきたいへん光栄に思います。これまでご指導いただいた先生方、防災科研の皆様、共同研究者の皆さま、および関係の皆さまに心より御礼申し上げます。
これまでの研究生活を振り返ると、2011年東北地方太平洋地震とその津波の発生メカニズムを知りたいという思いが根底にありました。現在、東北沖には日本海溝海底地震津波観測網S-netが展開され、「東北地震後」の沈み込み帯での地震と津波を詳細にモニタリングできるようになりました。さらに、いま南海トラフ海底地震津波観測網N-netの構築も進みつつあります。これらのデータを活用し、巨大地震と津波の発生メカニズムの理解、さらには火山噴火現象の理解に資する研究を進め、地震学の発展および自然災害の軽減に貢献できるよう一層励みたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。