受賞一覧
第15回泉萩会奨励賞を受賞しました
地震津波火山ネットワークセンター 久保田達矢主任研究員が、東北大学の第15回泉萩会奨励賞を受賞しました。泉萩会奨励賞は、泉萩会の会員から、物理科学の分野において特色があり将来性に富む業績を上げた若手研究者に授与されるものです。
授賞式は2023年10月28日の泉萩会総会にて行われました。
受賞の業績
海底観測データに基づく地震と津波と火山噴火現象の総合的研究
(Comprehensive study on earthquakes, tsunamis and volcanic eruptions based on seafloor geophysical observations)
受賞の対象となった論文
Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state, Tatsuya Kubota et al., Progress in Earth and Planetary Science 6 (2019) 67.
Global fast-traveling tsunamis driven by atmospheric Lamb waves on the 2022 Tonga eruption, Tatsuya Kubota, Tatsuhiko Saito and Kiwamu Nishida, Science 377 (2022) 91.


受賞理由
久保田達矢氏は、海域で発生した地震について、海底の観測網で得られた様々な海底観測データに固体-流体結合系の連続体力学の理論を適用して、地震・津波・火山現象の物理メカニズムの理解に向けた研究を行ってきた。
2012年12月7日に、宮城県沖の日本海溝付近の深さ60km付近の太平洋プレート内部で逆断層型のM7地震が発生してから僅か10秒程度の後に、そのごく近傍の深さ20km付近で正断層型のM7地震が発生するという非常に奇妙な地震ペアが生じた。最初の地震は遠地地震波形からなんとか解析できるものの、二番目の地震は波形が最初の地震の波形と重なってしまって、震源も発震機構解も不確定性が大きい。一方、津波波形は一般に浅部の地震に敏感で深部の地震に対しては鈍感なので、その解析によって浅部で生じた二番目の地震の断層モデルを拘束することができる。久保田氏はこのようなアイデアのもと、慎重な解析により、この二つのM7地震の震源断層の位置関係を正確に求めることに成功し、さらにこれらの地震と2011年東北地方太平洋沖地震との関係から、プレート内部の応力や強度の分布の推定にも成功している(論文1)。
また、2022年1月15日に南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山で発生した大規模な噴火により、地球規模で伝播する大規模な津波が発生したが、この津波は通常の津波よりも速く伝播したことが注目された。久保田氏は、この奇妙な津波が地球表面に沿って伝播する大気境界波の一種である「ラム波」によって励起された津波であることを、シミュレーションを用いて明確に示した(論文2)。この論文は噴火から僅か一月足らずで投稿され、その3ヶ月後にScience誌のオンライン版で世界に先駆けて発表されたものである。これは久保田氏が,固体地球と海と大気の3者の相互作用について、長年研究をしてきた経験により実現できたものである。
さらに久保田氏は、地震動と津波が同時に記録されている、2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)の震源域直上の海底圧力計のデータに取り組み、その複雑な波形記録から震源域直上の大振幅の地震波形を取り出すことにも世界で初めて成功している(Kubota et al., 2021)
。
以上のように久保田氏は、海底圧力計のデータを独自の視点で解析し、近年、目覚ましい成果をあげて、国内外の学界から注目されており、泉萩会奨励賞にふさわしい研究者であると判断される。
※泉萩会ウェブサイトより転載
受賞コメント
栄誉ある賞を頂けたことを大変光栄に思うとともに、身が引き締まる思いです。この賞に恥じぬよう、今後も精進してまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。また、これまでご支援・ご指導いただいた皆様に心より御礼申し上げます。