受賞一覧
2023年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました
(震度のリアルタイム演算法の開発 )
地震津波火山ネットワークセンター 㓛刀卓副センタ—長、青井真センター長、マルチハザードリスク評価研究部門 中村洋光副部門長、地震津波ネットワークセンター 鈴木亘主任研究員、マルチハザードリスク評価研究部門 森川信之主任研究員、藤原広行部門長が、2023年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました。
この賞は日本地震学会において、地震学の発展に関わる優れた技術開発および研究基盤構築の功績が認められた個人または団体に贈られるものです。
授賞式は日本地震学会2024年度秋季大会の場において行われる予定です。
受賞対象功績名
震度のリアルタイム演算法の開発
受賞理由
地震に伴う揺れや被害の大きさおよび分布を発災直後に把握することは適切な初動対応をとる上で極めて重要です。このような目的で使用される地震動指標として日本において最も浸透しているのは震度であり、多くの機関が震度で初動のレベルを定めているだけでなく、多くの国民が震度と揺れや被害の程度に関して相当程度の感覚を持っているなど、防災上極めて大きな役割を果たしています。
従来震度は体感や被害で定められていましたが、1990年代中頃から計測震度計が導入されたことにより自動化と時間短縮が図られました。しかし計測震度は1分間の地震動記録を用いて算出することから(平成8年気象庁告示第4号)、地震発生後1分半程度しないと発表されません。この問題を抜本的に解決することを目的に、防災科研の㓛刀卓副センター長を代表者とする本団体により提案された震度のリアルタイム演算法(以下、「本手法」と記す)は、最大加速度等の他の地震動指標を介すことなく時間領域の近似フィルタを用いて観測波形を処理することで、計測震度の計算精度と迅速性を両立させた画期的な方法です。同様な目的で過去にいくつかの方法の提案もありますが、大量のフーリエ変換処理が必要であったり、計測震度以外の連続的に算出可能な地震動指標を回帰式で変換する方法であったりするなど、適用できる演算装置や計算精度に限界がありました。本手法では演算量が少ない再帰型デジタルフィルタを用いることで迅速性(計算量削減)と計算精度保証を両立させ、観測装置によるリアルタイムかつ連続での現地計算を可能とし、通信量の軽減やパケット落ち等による指標の欠落時間の最小化に成功しています。
本手法はすべての防災科研の強震観測網K-NETおよびKiK-netの1700台超の観測装置だけでなく、気象庁や一部の自治体の震度計にも実装されています。緊急地震速報において震源要素を用いず震度予測するPLUM法は本手法を採用することで実現されており、地震の見逃しの低減等に貢献しています。また、日本列島の現在の揺れを表示する防災科研の「強震モニタ」は緊急地震速報の予測震度と実測のリアルタイム震度を重畳することで地震発生や地震動伝搬を把握できるサービスとして2008年から公開され、2011年東北地方太平洋沖地震や2016年熊本地震、2024年能登半島地震を含む被害地震直後のピークアクセスは数十万に達します。また、「Yahoo!天気・災害」における情報提供、「TBS NEWS DIG」及び、ゲヒルン株式会社の「NERV防災」アプリでのリアルタイム震度を表示する機能の追加など民間へも活用が広がっています。さらに、大地震発生直後対応の意思決定を支援することを目的とした防災科研のリアルタイム地震被害推定システム(J-RISQ)においても迅速化のためリアルタイム震度を採用しており、2016年熊本地震や2024年能登半島地震をはじめ、推定結果を防災クロスビュー等で公開しており、自治体の災害対策本部等で活用が進んでいます。
このように、本手法は日本で最も浸透している地震動指標である計測震度のリアルタイム演算を可能にすることで、これまで事後情報であった震度を、一般市民も含めたリアルタイム活用、そして大きく揺れ出す前の情報としての緊急地震速報の精度向上や、大地震発生からの迅速な災害対応のための被害推定に大きく貢献してきました。本手法の開発および改良から十余年の間に、強震計での現地処理等への実装が進むことで(特許利用はK-NET・KiK-netを除き1000件以上)リアルタイム震度が流通し、それらを活用した新たな研究が勃興し、防災情報が開発・改良され、近年急速に社会実装が進みました。
以上の理由から、優れた業績と地震学の発展への高い貢献をしたと認められ受賞したものです。