受賞一覧
2023年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました
(海底における長期・多点・広帯域地震観測の実現による地震学分野への貢献 )
地震津波火山ネットワークセンター 望月将志上席研究員が、東京大学 金沢敏彦名誉教授、塩原肇教授、篠原雅尚教授、自己浮上式海底地震計開発チームの神戸大学 杉岡裕子教授、東京大学 一瀬建日准教授、山田知朗助教、海洋研究開発機構 伊藤亜妃副主任研究員、東京海洋大学 中東和夫教授、株式会社マリン・ワーク・ジャパン渡邊智毅氏、東京大学 八木健夫氏とともに2023年度日本地震学会技術開発賞を受賞しました。
この賞は日本地震学会において、地震学の発展に関わる優れた技術開発および研究基盤構築の功績が認められた個人または団体に贈られるものです。
授賞式は日本地震学会2024年度秋季大会の場において行われる予定です。
受賞対象功績名
海底における長期・多点・広帯域地震観測の実現による地震学分野への貢献
受賞理由
受賞対象は、日本周辺海域のみならず世界の海底における長期・多点・広帯域地震観測の実現を通じて地震学の発展に多大な貢献をしてきました。主な業績は以下の通りです。
受賞団体が開発した自由落下・自己浮上式海底地震計システム(本システム)は、海底における長期・多点・広帯域地震観測を実現することを通じて、沈み込み帯における多様な地震現象や海洋リソスフェアの構造に関する地震学的研究に多大な貢献を果たしてきました。本システムは、現在も海域地震探査における稠密観測等で活躍している1980年代に開発・実用化した海底地震計(従来型装置)を母体として、1990年代後期から開発されました。本システムは従来型装置の小型軽量かつ海底からの高回収率であるという長所を維持しつつ、長期連続観測および広帯域観測を実現するというコンセプトで開発されました。本システムでは、 50cmまたは 65cm のチタン球が耐圧容器として採用され、強制電蝕方式の切り離し機構もチタン板を用いて高度化され、安定した長期観測が実現されました。センサーとして 1Hz 型速度計および CMG-3T(360秒)などの広帯域地震計を使用できるようになり、広帯域化されたセンサーの性能を損なわないような高性能な姿勢制御機構が導入されました。こうした機械的部分の大幅の改善と並行して地震波形記録装置の開発も行われ、容器内に収納可能な電池数の制約の下で、高い刻時精度と高ダイナミックレンジで地震波形の長期連続記録可能な低消費電力・高性能なものが実用化されました。
本システムによる観測は、スロー地震現象に関する研究の上で大きな貢献を果たしています。陸上の地震観測網により発生が知られていた南海トラフの付加体下での浅部超低周波地震を震源直上で観測することにより、 震源深さに関する制約が大幅に向上しました。その後、巨大地震発生帯の深部側に比べて研究が遅れていた浅部スロー地震の活動特性の解明が飛躍的に進み、本システムはスロー地震現象の包括的な理解のために重要な観測ツールとして広く国際共同観測において活躍しています。千島海溝・日本海溝・南海トラフ域における地震の震源決定精度の向上によりプレート境界地震とプレート境界上盤・下盤それぞれにおける地震活動の特徴が把握され、長期繰り返し観測による2011年東北地方太平洋沖地震前後の地震活動の時空間変化の解明も進められました。さらに地震波速度トモグラフィやレシーバー関数解析等により大地震のすべり分布やスロー地震現象の活動分布に対応するような海底下構造不均質の特色が明らかにされています。また、本システムによる広帯域地震観測は海洋底下のマントル構造に関する研究においても目覚ましい成果を挙げ、標準的な海洋リソスフェアである北西太平洋プレートを対象とした観測研究では、地震波速度構造の年代依存性の研究を通してリソスフェアの進化過程が明らかにされました。一方、フィリピン海プレート上での広域観測から、沈み込んだ太平洋スラブとその上側に広がるマントルウェッジ内の構造の包括的な理解が進みました。近年では、本システムで得られるデータが地震波干渉法によるS波速度構造モデルの推定や海底下構造の時空間変動現象の解明など幅広い研究分野で活用されるようになっています。
以上の理由から、優れた業績と地震学の発展への高い貢献を認められ受賞したものです。