報道発表
防災科研が開発した手法を活用した長周期地震動の予測が気象庁で開始されます
2023年2月1日
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
高層ビル等に大きな揺れをもたらす長周期地震動による被害軽減を目的として、国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長:林 春男)が開発した長周期地震動の即時予測手法が気象庁で活用され、気象庁が2023年2月1日から緊急地震速報に追加する長周期地震動の予測に用いられます。
- 1.内容:詳細は、別紙資料による。
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大都市に多数存在する高層ビル等は、大地震発生時に生じる長周期地震動により、震源から遠くであっても長時間大きく揺れ被害につながることがあります。国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。) は、これまで長周期地震動の即時予測手法の開発を進めてきました。この予測手法が、2023年2月1日から気象庁が緊急地震速報に追加する長周期地震動の予測に用いられます。また、防災科研においても「長周期地震動モニタ」により予測情報の提供を行っています。これらにより、長周期地震動による被害軽減に大きく貢献することが期待できます。
- 2.本件配布先
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文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会
(別紙資料) 防災科研が開発した手法を活用した長周期地震動の予測が気象庁で開始されます
- 1.概要
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大都市に多数存在する高層ビル等の長大構造物は、大地震が発生した際に震源から遠く離れた場所であっても、長時間にわたって大きく揺れ被害につながることがあります。2011年東北地方太平洋沖地震の際には、震源から約400km離れた東京や700km以上離れた大阪等の高層ビル等で大きな揺れが生じ、内装材や防火戸の破損、エレベーターの閉じ込め等の被害をもたらしました。これらは、大地震が発生したときに生じる周期の長い地震動(長周期地震動)によるもので、震源から遠く離れていても、大都市が位置する大規模な堆積平野により増幅されるため、高層ビル等に大きな揺れが生じることがあります。長周期地震動について事前に予測情報を提供することで、大きな防災上の効果が期待できます。
気象庁は、長周期地震動による被害の可能性がある場合も緊急地震速報を発表できるよう、2023年2月1日12時から、緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級を追加すると発表しました1),2)。気象庁による長周期地震動の予測手法として、防災科研がこれまで開発してきた長周期地震動の即時予測手法が活用され、わが国における長周期地震動による被害軽減に大きく貢献することが期待できます。 - 2.防災科研における長周期地震動の即時予測に関する研究開発と情報発信
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防災科研が開発した予測手法は、防災科研が運用する陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)による大量かつ高品質の地震観測データを活用したものです3)。この手法は、震度に対する緊急地震速報と同様の迅速性で長周期地震動の予測が可能です。また、防災科研による地震ハザードステーション(J-SHIS)が提供する深部地盤モデルデータを用いることで、日本全国どこでも各地点の地盤構造を考慮した予測ができます。この予測手法が、気象庁による長周期地震動の即時予測に用いられます。
防災科研では、上記の予測手法を実装した長周期地震動に関する予測システムと情報配信システムを開発しました。情報配信システムは「長周期地震動モニタ」と「長周期地震動指標API」からなります。「長周期地震動モニタ」では、予測システムによる予測情報とMOWLASによるリアルタイムの観測情報を地図上に可視化しています。「長周期地震動モニタ」は気象庁や一般ユーザーの方々等と共同で実施した実証実験での検証や高度化を経て、現在はWeb上でどなたでもご利用いただけます。2020年10月の「長周期地震動モニタ」の一般への公開に際しては、長周期地震動の予報業務許可を取得しました。また、「長周期地震動指標API」は、リアルタイムの予測情報・観測情報を数値で配信するシステムです。これらの研究開発の一部は、内閣府による「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」における「官民連携による防災情報サービスプラットフォームの構築及び適切な災害対応の推進」の一環で実施しました。
- 参考文献
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1)気象庁報道発表資料、長周期地震動等に対応した防災気象情報の強化にかかる運用開始日時について(令和5年1月25日)
2)気象庁報道発表資料、長周期地震動に対応した防災気象情報の強化について(令和4年10月26日)
3)Dhakal, Y. P., W. Suzuki, T. Kunugi, & S. Aoi (2015), Ground Motion Prediction Equations for Absolute Velocity Response Spectra (1-10s) in Japan for Earthquake Early Warning, 日本地震工学会論文集, 15, 91-111. - (語句説明)
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- ・長周期地震動
- 大きな地震が発生したときに生じる、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)が長い揺れのことを長周期地震動といいます。長周期地震動により、高層ビルが大きく長時間揺れ続けることがあります。また、長周期地震動は遠くまで伝わりやすく、大都市が位置する関東平野や大阪平野等の軟弱な地盤からなる大規模な堆積平野により増幅されることから、地震が発生した場所から数百 km はなれたところでも大きく長く揺れることがあります。長周期地震動による大きな揺れにより、家具類が倒れたり落ちたりする危険に加え、大きく移動したりする危険があります。
- ・陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)
- 防災科研では、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を契機として、全国の陸域において高感度地震観測網(Hi-net)、全国強震観測網(K-NET)、基盤強震観測網 (KiK-net)、広帯域地震観測網(F-net)の整備・運用を行ってきました。また、16の火山において基盤的火山観測網(V-net)の整備を行い、火山活動を観測しています。海域においては、2011年3月11日に発生した東日本大震災を受け、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を北海道沖から房総半島沖までの海底に整備し、2016年4月には、紀伊半島沖から室戸岬沖にかけて整備された地震・津波観測監視システム(DONET)が海洋研究開発機構より防災科研に移管されました。これら全国の陸域から海域までを網羅する「陸海統合地震津波火山観測網」を「MOWLAS」(Monitoring of Waves on Land and Seafloor:モウラス)と呼んでいます。
- ・地震ハザードステーション(J-SHIS)
- 地震防災に資することを目的として、日本全国の「地震ハザードの共通情報基盤」として活用されることを目指してつくられたWeb サービスです(https://www.j-shis.bosai.go.jp/)。
- ・API
- APIとはApplication Programming Interfaceの略称で、ソフトウエアやサービスの間をつなぐ仕組みを指します。「長周期地震動指標API」では、利用者からの要求(リクエスト)とそれに対する応答(レスポンス)をHTTPプロトコルで実現するWebAPIを用いて、長周期地震動の予測情報と観測情報を提供することができます。