報道発表
E-ディフェンス公開実験のお知らせ
-10層鉄骨造オフィス試験体による建物の動的特性評価実験-
2023年01月26日
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長:林 春男)は、世界最大級の高さ26.9mの10層鉄骨造オフィス試験体を対象としたE-ディフェンスでの震動実験を実施します。今回の実験では、建物がもつ揺れの特性評価手法と、地震時に速やかな判断・対応を行うためのセンシングと光アラート機能をもつカーテンウォールシステムの実証実験に加え、国内外の機関と連携して、試験体の利活用と研究成果が社会へ展開されることを目指します。
- 1.実験主体
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国立研究開発法人防災科学技術研究所
【実験担当者】地震減災実験研究部門
研究統括 梶原 浩一
主幹研究員 藤原 淳
主幹研究員 岸田 明子
特別技術員 荒井 智治
特別技術員 西 崚汰 - 2.日時
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2023年2月17日(金)11時30分受付開始 (12時00分受付締切)
※工程の都合上、実施時間が変更される場合があります。 - 3.場所
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国立研究開発法人 防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター
〒673-0515 兵庫県三木市志染町三津田字西亀屋1501-21 - 4.対象
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報道機関・実験関係者など
※今回、一般の方への公開は行いません。どうぞご了承ください。 - 5.内容
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別紙資料による。
(別紙資料)10層鉄骨造オフィス試験体による建物の動的特性評価実験
- 1.研究の目的
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近い将来に南海トラフ地震、首都直下地震など大規模な地震の発生が確実視されている状況で、国民の生活を支える社会経済活動の維持・継続のためには、これら将来の地震に向けた事前準備と地震後の速やかな判断・対応が行えるレジリエントな社会を実現することは喫緊の課題です。国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。)の地震減災実験研究部門では、「地震対応力向上のためのダメージ評価手法の研究開発」の一環として、わが国の社会経済活動の一翼を担っているオフィスビルに着目し、E-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験施設)において実大規模の10層鉄骨造試験体を対象とした震動実験を実施します。
本研究において、震度3、4クラスやそれよりも小さな日頃数多く発生している地震の揺れにより「現時点での性能」として建物の揺れの特性(動的特性)を評価する「動的特性評価手法」の開発に取り組んでいます。この手法では、揺れのデジタルデータを用いた解析アルゴリズムの高度化の研究を進めています。また、この「現時点での性能」に基づき大規模な地震後の速やかな建物の状況判断と継続利用の可否を判断するための、建物外装材に具備する「アルミカーテンウォール内蔵型センサーアラートシステム」の開発も行っています。
10階層鉄骨造試験体の震動実験は、「動的特性評価手法」「センシング・光アラートシステム」を実証する目的として実施するものです。また、国内外の機関、企業、大学などによる試験体内の空間を利用した共同実験・空間貸与実験を実施することにより、本研究の成果が速やかに社会へ展開されることを目指します。 - 2.実験概要
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- 2.1 試験体
- 本実験では、社会経済活動の中心となる中層のオフィスビルをターゲットにした試験体を設定しました。
試験体の平面図と断面図を図1に示します。試験体の平面形状は12.0m×8.0m、階数は10で、高さは26.9m、重量は約700トンです。試験体の骨組は鉄骨造で、一般的なオフィスビルを想定して、現行の耐震基準に従って設計しました。長辺方向には1階から7階にブレース(筋交い)を設置する一方、短辺方向にはブレースを設けません。長辺方向と短辺方向とで異なる構造とすることで、1回の加振で構造特性の異なる建物のデータを得ることが可能となります。
図2に示した試験体の外観パースにみられるように、建物外周のほぼ全面がカーテンウォールで覆われています。外装材の設置状況を忠実に再現した実大規模の試験体を対象とする震動実験は世界初です。
後述のように、この外装材には、センサーとLEDライトを内蔵しており、地震による建物の変形を計測するとともに、変形から推定した建物の被災状況を発光表示することが可能です。
- 2.2 加振計画
- 震動実験では、震動台上に中小地震を再現して建物に損傷が生じない場合の応答(変形量や加速度など)を取得する実験と、大地震を再現して建物に損傷が生じる場合の応答を取得する実験を繰り返します。中小地震加振では、計測震度2から4の地震波を用います。大地震加振では、1995年の阪神・淡路大震災の時に、神戸海洋気象台(現在の神戸地方気象台)で観測された地震波(JMA神戸波)を用います。
- 2.3 地震時における「外装材のセンサー化」と「被災の見える化」
- 地震による建物の揺れ(地震応答)を計測するセンサーと、計測した地震応答から建物の被害状況を発光表示するためLED照明を建物の外装材と一体化した「アルミカーテンウォール内蔵型センサーアラートシステム」の研究開発を産学官共同で行い、社会実装を目指しています。
「外装材のセンサー化」では、建物の外装材であるアルミカーテンウォールにセンサーを組み込み、地震応答を取得します。建物の動的特性や地震損傷と層間変形には相関があることが知られており、これまでの研究によりカーテンウォールの変形から建物の層間変位を高い精度で推定できることがわかってきています。震動実験では建物の変形の計測に適したセンサーと地震応答データより被害状況を推定・評価する手法の実証を行います。
「被災の見える化」としては、アルミカーテンウォールに内蔵したLED照明を発光させます。平常時、フルカラーのLED照明は、建物ファサードのライティングシステムとして使用されます。建材と融合させ、色の変化や動きのある光の演出は、多彩に街を彩る建築照明として新たな意匠を浮かび上がらせます。地震時には、建物の被災状況を即時に発光表示するアラート機能をもたせます。ここでは、計測した建物の変形から被災状況を推定し、LED照明色(赤・緑・黄色)や発光パターンにより目に見える形で点灯させ、建物の安全性を広く知らせます。
昼夜を問わず発生する地震による建物の被災状況を即時に見える化するシステムは、地震発生後の速やかな建物利用の可否、避難行動の判断に大きく役立つと考えられます。
- 2.4 余剰空間の有効活用
- 防災科研では、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)に基づき、実験時の余剰空間の有効活用を図ることとしております。本実験においても、余剰空間の有効活用のために、試験体内部の余剰空間での共同研究実験や、余剰空間の外部機関への貸与を推進し、その結果、大学6件、研究機関1件、民間企業10件の合計17機関が参画し、試験体内部で3件の共同研究実験を実施し、9件の余剰空間貸与を行います。
試験体内部の利用状況を、図5に示します。特に余剰空間貸与の公募では、過去に例のない数の応募になり、試験体内の空間の約90%が利活用されています。
このように、試験体内部の余剰空間を有効に活用することで、多くの研究成果を創出し、社会に展開していきます。
- (参考)【共同研究機関】
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不二サッシ株式会社、文化シヤッター株式会社、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、国立大学法人千葉大学、株式会社長谷工コーポレーション、台湾・National Center for Research on Earthquake Engineering(NCREE)、台湾・国立成功大学