報道発表
地震の規模が変わっても断層すべりの継続時間が変わらない
“非自己相似地震”を大型岩石摩擦実験により再現
2026年4月30日
国立研究開発法人防災科学技術研究所
国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長: 寶 馨) は、地震の震源メカニズムの解明を目的として大型岩石摩擦試験機を用いた研究を行い、通常の地震のスケーリング関係から外れ、地震の規模が変化しても断層すべりの継続時間*1がほぼ一定となる「非自己相似地震」を、実験的に再現しました。
- 1.概要
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国立研究開発法人防災科学技術研究所は、世界最大規模となるメートルスケールの大型岩石摩擦実験を通じて、地震の震源メカニズムの解明に取り組んでいます。
本研究では、自然地震において観測事例は報告されているものの、その震源メカニズムが十分に理解されていなかった「非自己相似地震」について、世界的にも例のない4m長の大型岩石摩擦試験機と、サイズおよび形状を制御した人造震源パッチ*2を用いて実験断層上で再現しました。さらに、実験観測データと数値シミュレーションを組み合わせることで、非自己相似地震を説明しうる震源モデルを提案しました。
今後は、本研究で提案した震源モデルのさらなる検証と、自然観測における非自己相似地震の詳細なスケーリング関係の調査を通じて、地震の震源メカニズムの基礎理解を深め、巨大地震の発生予測に資する物理モデルの構築に貢献すると期待されます。本研究成果は、2026年4月30日(英国時間10時、日本時間18時)に英国科学雑誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
地震の規模が変わっても断層すべりの継続時間が変わらない “非自己相似地震”を大型岩石摩擦実験により再現
- 1.はじめに
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一般に、地震の大きさと断層の破壊が終了するまでの時間(断層すべりの継続時間)との間には、一定の関係が成り立つことが知られている。図1に示すように、小さな地震は小さな断層を短時間で破壊し、短周期の地震波を放射する一方で、大きな地震は大きな断層を長時間かけて破壊し、長周期の地震波を放射する。定量的には、断層すべりの継続時間は地震モーメント*3(地震の規模)の1/3乗に比例し、これは震源メカニズムに関する地震の自己相似則と呼ばれている。この自己相似則は、世界中の自然地震においてマグニチュードの小さなものから大きなものまで広く成り立つだけでなく、鉱山地震や室内岩石実験で生じる微小地震にも適用されることが確認されている。
一方で、この法則から外れる地震現象も存在する。代表的な例として、断層すべりの継続時間が地震モーメントに比例する、1乗のスケーリング関係を示すスロー地震が知られている(Ide et al., 2007)。これは、同規模の地震でも通常の地震に比べてスロー地震では断層がすべり終わるまでの時間が長く、その差は地震の規模が大きいほど顕著になることを意味する。さらに近年、これとは対照的に、断層すべりの継続時間が地震モーメントによらずほぼ一定となる、従来のスケーリング関係では説明できない「非自己相似地震」(図2)が国内外の複数の地域で報告され、その震源メカニズムに関する研究が進められている。しかし、自然地震観測においては、地震波の伝播特性や観測機器の特性に起因する不確実性により、震源パラメーターの高精度な推定に制約があり、その震源メカニズムはいまだ十分に理解されていない。
そこで本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所が開発した、4m長の大型岩石摩擦実験装置(図3)の実験断層上に、サイズと形状を制御した円形の人造震源パッチを配置するという世界的にも例のない実験を行い、非自己相似地震の再現を試みた。さらに、実験観測データと数値シミュレーションを組み合わせることで、非自己相似地震を説明しうる新たな震源モデルを構築した。 - 2.研究成果
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大型岩石摩擦実験では、一対の直方体岩石試料(変斑れい岩:上側4.0m長、下側4.1m長)を上下に積み重ね、岩石試料の接触面に圧力を加えるための垂直荷重を加えた後、下側試料の端面にせん断荷重を加えることで、接触面に相対変位を生じさせる(図4a)。この接触面は断層面に対応する。本研究では、下側岩石試料を試験装置から出し入れできる機構を活かして、実験断層面上に粉砕した岩石粒子(断層ガウジ*4)を用いて直径8mmの円形の人造震源パッチをあらかじめ配置した。実験断層面全体のすべりに伴って、これらのパッチ上で局所的な破壊が生じ、それぞれを震源とする地震から放射された地震波を、下側岩石試料側面に設置したアコースティック・エミッション(AE)センサーで観測した(図4b)。観測された地震波形は、位相相関が高い(すなわち断層すべりの継続時間がほぼ同一)一方で、振幅(地震の規模)が異なるという、非自己相似地震に特徴的な挙動を示した(図4c)。
本研究では、AEセンサーの振幅・位相特性および岩石試料の減衰特性を補正する手法を開発し、これらの地震波形を精緻に解析することで震源パラメーターを高精度に推定した。その結果、震源パッチで発生するイベントが非自己相似のスケーリング関係を示すことを定量的に確認した(図5)。
さらに、この実験観測データと数値シミュレーションを組み合わせ、震源パッチの動的破壊過程を定量的に説明する震源モデルを構築した。従来の非自己相似地震を説明する震源モデルでは、震源パッチ周囲に破壊の拡大を強制的に停止させる強い破壊バリアが仮定されていた。しかし、本研究では、滑らかな実験断層面の状態を反映し、従来のモデルより弱い破壊バリアを考える必要があった。このようにモデルと実験条件の整合性を考慮した数値シミュレーションにより、断層すべりの継続時間と地震の規模の関係が実験観測データと定量的に一致するよう、震源モデルを制約した。
この震源モデルの解析から、震源パッチ上の摩擦則として、従来のすべり弱化則*5に加え、すべりの進行に伴う摩擦強度の回復(セルフヒーリング)を考慮することで、実験観測データを説明できることを示した。この摩擦強度の回復現象は、既存の岩石摩擦実験やすべり速度・状態依存摩擦則*6によって支持されており、断層の動的破壊過程において重要な役割を果たすと考えられている。この効果を震源パッチの破壊過程に導入することで、破壊が震源パッチ領域を超えて拡大する際に生じるパッチ中央部での余剰なすべりが抑制され(図6)、その結果、地震規模が増大しても断層すべりの継続時間がほぼ一定となる震源過程を定量的に再現することに成功した。 - 3.今後の展開
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今後、異なるパッチサイズでの実験を実施し、非自己相似地震の震源モデルのさらなる検証を進める。また、自然地震観測における非自己相似地震のスケーリング関係と震源モデルを照合することで、震源部における応力・摩擦状態や、断層破壊の進展を抑制する破壊バリアの物理状態に関する理解を深め、巨大地震の発生予測に資する物理モデルの構築に貢献することが期待される。
また、本研究で開発した地震波形補正手法は、防災科学技術研究所で現在運用されている世界最大規模の全長6 mの大型岩石摩擦試験機で取得されるAE波形データの解析に応用可能である。これにより、実験断層を定量的に解析することで、地震の発生過程や破壊伝播メカニズムの解明につながることが期待される。 - 4.論文情報
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上記の成果に関する学術論文は、2026年4月30日に英国科学雑誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。
Kurama Okubo, Futoshi Yamashita, Eiichi Fukuyama (2026) Dynamics of non-self-similar earthquakes illuminated by a controlled fault asperity. Nature Communications.
- *著者情報(和名)
- 1:国立研究開発法人防災科学技術研究所 大久保蔵馬 主任研究員
2:国立研究開発法人防災科学技術研究所 山下太 上席研究員
3:京都大学大学院/国立研究開発法人防災科学技術研究所 福山英一 教授/招聘研究員
一般に、小さな地震は小さな断層を短時間で破壊し、周期の短い地震波を放射する。一方で、大きな地震は大きな断層を長時間かけて破壊し、周期の長い地震波を放射する。このように、地震の規模と断層破壊が終了するまでの時間との間には一定の関係(Tw 〜 Mo⅓ )があり、地震の自己相似則と呼ばれている。
(a) 断層すべりの継続時間と地震の規模とのスケーリング関係の概念図(スロー地震のスケーリング関係は Ide et al., 2007 をもとに加筆)。通常の地震やスロー地震と異なり、非自己相似地震では断層すべりの継続時間は地震の規模によらず、ほぼ一定となる。(b) 非自己相似地震の断層破壊過程の模式図。横軸は断層すべりの継続時間、縦軸は地震モーメントの時間変化率を示す震源時間関数であり、断層破壊の進展過程を表している。
本装置では、下側の岩石試料を写真のように手前に引き出すことができる機構を備えている。この機構を活用し、実験断層面中央に人造震源パッチを設置した後、岩石試料を試験機内に押し入れて実験を行った。白矢印は人造震源パッチの設置位置を示す。
(a)装置の模式図およびセンサー配置。断層のすべりや応力変化を捉えるために、多数のセンサーを高密度に設置している。(b)実験断層面上に断層ガウジを配置して形成した円形人造震源パッチ。(c) 実験中に観測されたアコースティック・エミッション(AE)波形。
赤丸は震源パッチイベントの地震モーメントと断層すべりの継続時間の観測推定値(エラーバーは標準誤差)を示す。星印は、そのうち5つのイベントを対象とした数値シミュレーションから得られた震源パラメーターを示す。灰色実線は、推定された震源パラメーターを対数空間で線形回帰して求めた非自己相似スケーリング関係を示す。黒点線は、それぞれ一定の応力降下量および破壊伝播速度を仮定した自己相似則に基づくスケーリング関係を示す。本研究で観測された震源パッチイベントは、自己相似則よりも小さい傾きを持つ非自己相似スケーリング関係に従うことが示される。
(a) すべり速度の時間発展を示すスナップショット。点線は震源パッチ領域を示す。(b) 累積すべりの時間発展。水色の等値線は、摩擦強度の回復によってすべりが制約される領域を示す。赤線は、最終的な破壊領域(すべり量の最大値の20%に相当する等値線)を示す。(c) せん断応力の時間発展。震源パッチ中央部において、モデルに導入した摩擦強度の回復が作用する様子が示される。
語句説明
*1断層すべりの継続時間:
断層破壊の開始から終了までの時間を指し、震源過程の時間スケールを表す指標。
*2人造震源パッチ:
断層ガウジ(後述)を円形に配置して形成される、局所的に地震の震源として機能する領域。
*3地震モーメント:
媒質のせん断剛性、断層面積およびすべり量の積で定義される、地震の規模を定量化する指標。単位はN・m。モーメントマグニチュードは、この地震モーメントに基づいて算出される。
*4断層ガウジ:
断層面の摩耗によって生成される岩石の粉砕粒子。本研究で震源パッチを形成するために用いられた断層ガウジは、岩石試料と同一の岩種をあらかじめ粉砕して作成された。
*5すべり弱化則:
断層すべりと共に摩擦係数が低下することを表す摩擦則。
*6すべり速度・状態依存摩擦則:
摩擦係数が断層すべり速度や接触状態(状態変数)に依存して変化することを記述する摩擦則。
