報道発表
ドローンが捉えた国内最大級の雪崩の堆積厚の分布
-巨大な雪崩の痕跡から、将来の雪崩災害に備える-
2026年09月25日
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
国立研究開発法人防災科学技術研究所
新潟大学
- ポイント
-
- ドローン測量を活用して巨大雪崩の堆積厚の空間分布と縦断分布を解析
- 当該の雪崩は、最大堆積厚12 m超、国内2番目の規模と判明
- 得られた堆積特性の知見は、雪崩危険区域の評価などの防災対策への活用が期待
概要
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、国立研究開発法人防災科学技術研究所、新潟大学災害・復興科学研究所の研究グループは、2021年1月10日に岐阜県で発生した大規模な雪崩を対象に、ドローン(小型無人航空機)による写真測量と現地での積雪調査を組み合わせ、雪崩の堆積層の厚さ(堆積厚)の分布と地形条件との関係から雪崩の堆積特性を解析しました。
解析の結果、雪崩の最大堆積厚は12 mを超え、総堆積量は国内で過去2番目の規模(約54万m³)であることが明らかになりました。また、堆積厚は下流に向かうにつれて徐々に減少する傾向を示し、これは傾斜が概ね20度未満の緩やかな地形における特徴であることが明らかになりました。さらに、谷幅の狭い区間や治山ダム(谷止工)の上流側に形成された平坦な場所(堆砂敷)では堆積厚が大きくなる一方、谷幅が広がる下流域では堆積厚が小さくなる傾向が確認されました。これらの結果から、雪崩堆積厚の分布には地形条件が大きく影響するとともに、治山施設も雪崩の堆積に影響を及ぼしていることが示唆されました。
これらの雪崩の堆積特性に関する知見は、大規模雪崩発生時の到達範囲や堆積厚分布予測の高度化、雪崩危険区域の評価など、雪崩災害に対する防災対策への活用が期待されます。
本研究成果は、2026年8月19日にBulletin of Glaciological Research誌でオンライン公開されました。
背景
雪崩は、山間地域の集落、道路、施設、森林などに被害をもたらす自然災害です。特に大規模雪崩は甚大な被害を引き起こすおそれがあります。しかし、その発生頻度は低く、雪崩の発生状況を詳細に記録できる機会も限られているため、雪崩の現象解明に必要な現地観測データの蓄積が課題となっています。
雪崩対策ではこれまで、過去に被害が発生した箇所を中心に、雪崩の発生予防や防護のための施設整備が進められてきました。近年の研究では、気候変動に伴い雪崩の発生頻度が低下する地域がある一方、地域によっては発生した際の雪崩の規模が大きくなる可能性も指摘されています。そのため、将来的には過去の被害実績だけでは想定できない大規模雪崩が発生する可能性があります。こうした状況のもと、大規模雪崩がどこまで流下し、雪をどのような場所にどの程度堆積させるかという堆積特性を明らかにすることは、雪崩の到達範囲や危険区域を評価するうえで重要です。
これまでの雪崩の堆積状況の調査では、現地踏査による到達範囲の確認や、積雪を掘って内部に残された雪崩の堆積層を特定し、その厚さを測定する手法が用いられてきました。しかし、大規模雪崩では到達範囲が広く堆積層も厚くなるため、人による踏査や手作業による測定のみでは、堆積厚の分布を面的かつ詳細に把握することは困難でした。
内容
本研究は、2021年1月10日に岐阜県・野谷荘司山で発生した大規模な乾雪表層雪崩*1)を対象に研究を実施しました(図1)。この雪崩を対象に、これまでに発生要因の解明や、森林が雪崩の勢いを弱める効果に関する調査・研究が実施されています。
本研究では、ドローン空撮による広範囲の三次元地形測量と、現地での積雪調査を組み合わせ、堆積域下流部における雪崩の堆積厚の空間分布を把握し、堆積厚分布と地形条件との関係を詳しく解析しました。具体的には、ドローン空撮による三次元測量から得られた雪面の標高値から無雪期の地面の標高値を差し引いて積雪深分布を求め、さらにこのデータに対して、現地で確認された雪崩の堆積層以外の雪の厚さを一律に差し引くことで、雪崩の堆積厚の空間分布を求めました。
解析の結果、雪崩の最大堆積厚は12 mを超え、総堆積量は国内で過去2番目の規模(約54万m3)に達し、雪崩規模分類*2)で最大級のSize 5に分類される事例であることが明らかになりました(図2)。また、堆積厚は下流に向かって徐々に減少する傾向を示しました。調査した堆積域の傾斜は概ね20度未満であり、これまで十分に検討されてこなかった緩傾斜における堆積厚の分布の特徴を初めて捉えることができました。さらに、谷の狭い区間や治山ダム(谷止工)の上流側に形成された平坦な場所(堆砂敷)では、雪崩の堆積厚が大きくなる一方、谷幅が広がる下流域では堆積厚が小さくなる傾向が確認されました。これらの結果から、雪崩堆積厚の分布には地形条件が大きく影響するとともに、治山施設も影響を及ぼしていることが示唆されました。
従来は把握が難しかった大規模雪崩の堆積厚を、面的かつ詳細に明らかにすることができました。
(a)堆積厚の空間分布。本図では現地調査で確認した堆積域内のみを表示。
(b)雪崩経路に沿った堆積厚の縦断分布。階段状に配置した治山ダムの直近は段差の影響で堆積厚は小さくなるが、ダムの上下流側にできた緩い勾配の斜面で堆積厚が大きくなります。
*等高線は国土地理院基盤地図情報(数値標高モデル) 5mメッシュ(標高)をもとに作成。
今後の展開
本研究により、大規模雪崩における堆積厚の分布と、地形条件や治山施設との関係が明らかとなりました。これらの雪崩の堆積特性に関する知見やデータは、大規模雪崩が発生した際に、どのような場所にどれだけの雪が堆積するかを予測するための基礎資料として活用できると期待されます。将来的には、雪崩危険区域の評価や、道路・集落周辺における雪崩対策、さらには治山施設の計画や機能評価への活用が期待されます。
一方、大規模雪崩の詳細な堆積特性に関する事例は依然として限られています。また、本研究は単一の大規模雪崩事例を対象としており、今回確認された傾向が他の地域や異なる規模の雪崩にも当てはまるかは十分に明らかになっていません。今後は、ドローンを活用した観測事例の蓄積と他の雪崩事例の調査・解析を進めることで、雪崩堆積域における地形条件と堆積特性との関係を体系的に整理し、雪崩の到達範囲や堆積厚分布の予測の精度向上を目指します。
論文
- タイトル
-
Deposition characteristics of a large avalanche revealed by UAV–based photogrammetry and ground snow surveys: The 2021 Mt. Nodanishoji Avalanche case.
- 著者
-
Takafumi Katsushima, Satoru Adachi, Hayato Arakawa, Yuta Katsuyama, Yukari Takeuchi, Katsuhisa Kawashima
- 掲載誌
-
Bulletin of Glaciological Research
- 論文URL
共同研究機関
森林総合研究所、防災科学技術研究所、新潟大学災害・復興科学研究所
- 用語解説
-
*1)乾雪表層雪崩
積雪内部の弱い層や層境界を滑り面として、その上にある水分を含まない乾いた雪が崩落して流れ下る雪崩。降雪中や降雪直後に発生しやすく、大規模かつ高速になる場合があります。
*2)雪崩規模分類
雪崩の規模を示す国際的な分類。想定される被害の大きさに加え、到達距離、質量、体積などの指標に基づいてSize1からSize5の5段階で示される。
